79.知識
忘れられない。
それがどんなに辛い事か、誰も分かってくれない。
私は見たもの聞いたものを、全て覚えていてしまう。
それは高校生の時から始まり、社会人になった今も続いている。
最初は便利だと思っていた。
教科書を一回見ればテストもバッチリだし、どんなに大事な予定も忘れることはなくなった。
親も褒めるし、友達との関係も上手くいく。
それがいつしか苦痛に変わった。
膨大な量の記憶。
人の矛盾する言動の数々。
嫌なものはずっと覚えていてしまう。
どんなに辛く、何度も死にそうな気持ちになった事か。
そのうち考える様になった。
嫌な記憶は、たくさんの記憶の中に埋もれさせてしまえば良い。
そうすれば覚えていたとしても、思い出す頻度が少なくなるのではないか。
「今日は広辞苑いってみよう。」
そこで私は家の近くにある図書館で、たくさんの量の本を読むことに決めた。
閉館ギリギリまで読み、頭の中をいっぱいにする。
これで、きっと正常な精神を保っていられる。
記憶と現実の境目が分からない。
今、起こっているのは私が読んだ本のものなのか。
これは私の目の前で本当に起こっているのか。
一体、何を基準に判断する事が出来る。
頭の中では、様々な知識が巡り巡っている。
そのどれもが使えなくて、ただ無駄なものだ。
それが私を苦しめているなんて笑わせる。
もうどうしたら良い。
何をすれば良い。
こんな時は何が役に立つ。
嫌、だ。
嫌だ。
私は救いを求めて、まだ誰も正確には知らない事を知識として蓄えようと近くに手を伸ばした。
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