34.DVD



 録画をした番組や映画を、DVDにダビングしてとっておいているのだが、あまりにも数が溜まりすぎた。

 その為、見ないものやいらないものは捨てようとしている。

 しかし量が多いし、ズボラな性格が災いして、中身が何なのか分からないものが沢山あった。


 まとめて捨てるわけにもいかず、中身を確認する為に再生をする。

 これが中々時間がかかる。


 それでも続けるのは、たまに懐かしいものが出てくるからだ。


「うわー。こんなドラマやってたなあ。面白い。」


 しかしあまりに懐かしいから、ついつい続きを見てしまって、さらに時間が過ぎてしまう。


「あー。面白かった。あとでまたちゃんと見よう。えーっと、次は……。」


 とあるドラマを最後まで見終えて、僕は次の何も書かれていないDVDを手に取った。

 所々薄汚れているそれは、裏を見ると容量一杯なようだ。


「どんなのかな?」


 僕はプレイヤーにセットした。

 少しの時間読み込んだ後、再生される。



 それはタイトルも何もなく始まった。

 20代後半ぐらいの女性が、スマホを片手に道を歩いている。


「何だこれ?」


 僕は内容に全く見覚えが無くて、首を傾げた。

 今までのは少し見ただけで何なのかすぐに分かったのだが、これは全然思いつかない。


「ま。とりあえずみるか。暇だし。」


 しかし整理も終わりかけていたので、僕は見続ける事にした。


 画面の中の女性は、暗い夜道をもくもくと歩く。

 住宅街に入ったのか人通りが全くない。


 何だか嫌な予感がする。


 こう言った時のホラーの定番といえば決まっている。

 僕はいつしか、固唾をのんで見入っていた。


 そして予想通り、女性の後ろに不審な気配が忍び寄り。


「うわぁっ!?」


 僕は叫んでしまった。

 あまりにも凄惨な場面で、勢いよく顔をそらす。

 リアルすぎる。音が無かったのが幸いして、軽い吐き気をもよおすだけですんだが、僕はすぐに停止ボタンを押した。


「何だよこれ。何でこんなのがあるんだよ。」


 震える手でプレイヤーからDVDを取り出すと、それを捨てる予定の方へと置く。

 ドラマや映画のワンシーンだったとしても、あれは気持ち悪い。

 すぐに忘れよう。

 気持ちを無理やり切り替えて、別のDVDに手をのばした。



 それから何だかんだ忙しくなり、片づけが中途半端なまま数日経った。

 捨てようと思ったのだが、そう思うと急に用事が出来たり、別の事に意識が持っていかれてしまう。

 そして結局、持ったままであった。


 今日こそは捨てよう。

 そう思いつつ朝ご飯を食べていると、点けっぱなしだったテレビがニュースに変わった。


「先日、○○県○○市で起きた殺人事件の被害者の身元が、昨夜発表されました。被害者の名前は芝崎美知佳さん、25歳。芝崎さんは会社から自宅へと帰宅している途中、被害にあったものだと考えられています。」


 僕は何気なくテレビに目を向けて、持っていた箸を落とした。


「え。え?」


 テレビの画面に映っている女性の顔に見覚えがありすぎた。その顔はついこの間、画面越しに誰かに刺されて苦悶の表情を浮かべていて……。


「うっ。」


 こみ上げてくるものを、口を抑えてなんとか耐える。

 そして僕は、慌ててDVDを置いていた場所に行く。

 一番上に置いていたから、それはすぐに見つかった。


 真っ先に手に取り、すぐさまプレイヤーにセットした。

 本当は見たくなかったが、もし僕の気のせいではなかったら、このDVDは証拠になるはずだ。

 僕は深呼吸を何度もして、再生ボタンを押した。



 映像が流れ始める。

 僕はそれを食い入るように見た。


「あれ?この前、こんなんだったっけ?」


 しかしすぐに違和感に気づく。

 この前見た映像と、明らかに場面が違っていた。

 まず映っている人が違う。女性じゃなくて、初老の男性だ。


 最初は間違えたのかと思ったが、そのはずはない。

 それじゃあ何故?

 疑問に思ったが、僕はみるのを止めなかった。


 初老の男性は自宅なのか、くつろいだ格好でビールを飲んでいる。

 テレビではバラエティ番組がやっていて、それをとてもつまらなそうに見ていた。


 しばらくその状態が続いていたが、突然部屋の電気が消える。

 しかし停電ではないのか、テレビはついたままだ。

 薄暗い部屋の中、男性の影が動いている。

 その時、画面の手前から別の影が出てきた。

 そいつは迷うことなく、男性の元に進むと腕を振り下ろした。

 テレビの画面に飛び散る、大量の血。


「うっ。うえっ。」


 そこまで見て僕は止めた。

 また吐き気が襲いかかっていて、顔が変形するぐらいの力を入れて口を抑える。

 しばらく、そのままの体勢でいて気持ちを落ち着かせた。


 長い時間がかかったが、ようやく立ち直ると、すぐさま僕はプレイヤーからDVDを取り出す。

 それを近くにあった袋に入れて、何度も口を縛りゴミ袋の中に投げた。


「こんなの、こんなの。」


 僕は恐怖からガチガチと歯を鳴らして、その袋をゴミ捨て場に持っていく。

 ちょうど今日はゴミの回収日で、たくさんある袋の下にいくようにそれを捨てた。


 家に帰ると、安堵からほっとため息をつく。

 もうあんなものを記憶にとどめておきたくなかった。

 僕には関係ない。

 そう何度も自分に言い聞かせた。
















 それからニュースで、あの男性が殺害されたと流れた。

 僕はそれを見ながら、とても後悔している。


 何であれを捨ててしまったんだろう。

 もし誰かが拾って中身を見た時、そこに映っているのが僕だったら。

 女性や男性の様に、現実に殺されてしまうかもしれない。

 僕は誰にも再生されない為にも、手元に残しておくべきだったのだ。


 そう思っても今更遅い。

 ゴミ袋の行方は、もう分からないのだから。


 僕はこれから、あれがもうこの世にはない事を願い続けながら、一生を過ごすしかない。





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