いい暇つぶしになったよ。ありがとう

「猫芥子...どういう事だ?」


思わず俺は猫芥子を振り返る。


猫芥子は変わらない表情で、日々垣さんに目線だけ向けた。

日々垣さんは、その視線に気がついたのか、それとも気がつかなかったのか、ふっと微笑んで、


「日向さんは、確かに絆レベルマックスで、全ステータスカンストでしたね。一方猫芥子さんは、日向さんと同じく全ステータスはカンストでしたが、絆レベルは1にも満たなかった──ですが」


日々垣さんは、"ですが"に口調を強め、


「この勝負の勝敗の説明を改めてさせていただきます」


「勝負内容は、テレビゲーム。才能あるもの。略して才ものとは、凡人以下の引きこもりクソニート野郎を立派な才能あるものに育てるというゲームです。TKB開始から、二週間後に才ものをプレイしたお二方のセーブデータを見せていただき、対戦期間二週間でより才能あるものを育てられた方が勝利──という内容でしたね」


「猫芥子さんは、全ステータスカンストのキャラ亀有君を育てていましたが」


クラスの皆が僕を一斉に見る。

僕じゃない、僕じゃない。


「こちらのセーブデータの亀有君も、見てください」


!?!????!?


クラス全員がモニターに注目する。

モニターには、さっきの亀有くんにそっくりな亀有君がモニターに映し出されていた。

どういう事だ?


「彼も、全ステータスはカンストしてますし、才能も全取得です。では、こちらの亀有君も見てください」


「ま.....待つでござるよ。まさか...」


日向は、震え声で猫芥子を見た。

猫芥子は答えず、モニターを見ていた。

代わりに日々垣さんが説明する。


「そして、こちらのセーブデータも。こちらのセーブデータも。そうですね。実に全67種類の全ステータスカンスト全才能取得の亀有君を育て上げた猫芥子さんが、今回のTKB勝者と見て、まず間違いないでしょう」


日々垣さんは、冷静に告げた。

ゲームの天才であるマサムネのプライドがぼっきりと折れる音がした。


「ま.....待つでござるよ。どういう事でござるか...そうか、ハンデ!このゲームの趣旨を運営が猫芥子殿に伝えていたのでござろう!?それはずるいのではないでござるか!?」


確かにそうだ。それがわかっていたら、猫芥子はきっと猫芥子の倍は確実に全ステータスカンスト、更に絆レベルもマックスのキャラを育て上げていたと思う。


「いいえ、今回のTKBの猫芥子さんの特別ルールは、そのようなものではありません」


日々垣さんは、マサムネに冷たく、淡々と告げた。


「今回のTKBの特別ルールは、"猫芥子さんに一週間早くゲームをプレイしてもらう"というものでした。二週間の勝負が、彼だと約一ヶ月間、ゲームが出来たという事になるわけです。その中で彼は自分なりにこのゲームを解釈し、勝ちのレールに乗っかったわけです」


マサムネは、だるんと両手を放り出し俯いた。

日々垣さんは、更に冷たく追い討ちをかけた。


「そのゲームにしか集中しなかった貴方と、このTKB、対決に集中してゲームに取り組んだ猫芥子さんとの差が出るのは当然です」


「もういいよ。日々垣さん」


猫芥子は、トントンと一番上の一番端の席からマサムネのところまで降りてきた。


「いい暇つぶしになったよ。ありがとう」


真っ直ぐに、マサムネを見つめ、真剣な顔の猫芥子に、マサムネは猫芥子の胸ぐらに掴みかかった。


「...暇つぶし?..拙者は!!このゲームを!!...親友を、本当の親友とまた話ができる、こうして過ごせると、そういう気持ちで行ったのでござる!!...猫芥子殿は...ただの暇つぶしだったのでござるか?」


マサムネは、目に涙をためてかすれ声で猫芥子に呼びかけたが、猫辛子は表情を変えなかった。


「楽しかったよ。ゲームっていうのは、いい暇つぶしになるもんでさ、でも一週間もしたら飽きちゃった。俺は暇つぶしの天才だ。暇をつぶす天才だよ。でも、飽きるのが早いんだ。だから色んなことをして人生の暇を潰している。飽きた後の二週間は、亀有君とゲームをする事で暇を潰してた。飽きたものでも、遊び方を変えれば楽しい事もあるんだなって」


「じ...じゃあ、拙者が必死にゲームをしていた間は、ゲームに既に飽きていたのでござるか?」


「うん、まぁね。亀有君とゲームするのにも飽きてきて、部屋でこのゲームの他の遊び方がないかなとか色々試して見たりしたけど、もういいかな。このゲームは」


冷めた口調で、本当に飽きたら興味がなくなるんだな。


「ありがとう。マサムネ君、俺は君の分までちょっとだけ長く暇を潰して生きるよ」


マサムネは、静かに目を閉じた。

そしてくるりと僕を振り返る。


「ありがとう...亀有殿。亀有殿と過ごした時間、すごく楽しかったでござる。拙者の事...心配してくれて、ありがとうでござる。拙者の代わりに、親友の仇を討ってきてほしいでござるよ...」


マサムネは、つーっと涙を流し微笑んだ。


「待て...マサムネ!!マサムネ!!待って」


パァン。


風船が弾ける音がして、目の前からマサムネは消えていた。

僕は泣きながら、膝から崩れ落ちた。


「マサムネ...マサムネ...そんな..僕は、どっちも救えなかったのか?」


どちらも本当に僕は救えなかったのか。

そんな事を考えて、硬く目を閉じ涙を流した。また、友達を失った。


「では、TKBが終わりましたのでこのゲームのデータは削除させていただきます」


「ま、待って、それはマサムネの...大切な!!やめてくれ!」


僕の声は届かなかった。

日々垣さんの声と共に、マサムネが退学で消えてしまったように、マサムネの親友ダークシャドウのデータも消されてしまった。


こんなのがいつまで続くのだろう。


「猫芥子さん、TKB勝利おめでとうございます。バッジは後程。そして、次のTKBがもう早々に決まりました。明日の朝発表致しますので、よろしくお願いします」


日々垣さんと正門さんは、モニタールームから出て行った。どうしてこんな事をしなくてはいけないんだ?

自分のバッジをぎゅっと握りしめ、僕は涙をごしごしとこすった。

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死にたくないから僕は今日も学校に行く ガイア @kaname0109

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