こんなクラス総出でこんでも...

今日は猫芥子とマサムネのTKB当日の朝。

猫芥子は、いつもより神妙な面持ちで朝のHL前、机に座っている気がする。

マサムネはまだ教室に来ていないようだ。

ギリギリまでゲームをしているのだろう。


「猫芥子...その、大丈夫か?」


思わず声をかけてしまった。

猫芥子は、ゆっくり僕を振り返って微笑んだ。


「大丈夫だよ亀君、心配しないで」


その様子にホッとする僕がいる。

マサムネは猫芥子と違って才能ものというゲームのキャラクターに自分の親友を投影させてゲームをしている。

故に思い入れがすごいんだろうなぁ。

ゲームをかなりやり込んで勝負に挑んで来そうだ。


ガラリと扉が開いて、久々にマサムネが学校に登校して来た。

げっそりとしていてクマがひどい。まさに廃人ネットゲーマーって感じだな...。大丈夫なのか?


「行ってあげたら?亀君」


猫芥子が、こっちを見ずに言うものだから僕は少し戸惑った。

声かけていいものなのか?

マサムネは、ヘッドホンに手を添えてブツブツと誰もいないのに机に座って誰かと話しているようだ。

きっとまだゲームでいつも話しているのが抜けてないんだろう。

クラスの人達はそんなマサムネの様子を遠くでヒソヒソ話しながら見守っている様子だった。


「だいぶ変わったな日向」

「前はもっと可愛い感じだったのに」


そんな声が聞こえて、僕は静かに目を閉じた。


「朝のHLを始める...前に猫芥子と日向のTKBの対決の結果発表にうつるぞ」


犬飼先生がガラリと教室に入って来るのにぴったり付いて来るように、後ろでTKB管理委員会の正門と日々垣さんが入って来た。


「猫芥子さんと、日向さんのお部屋から才能あるものを返してもらって来ました。さて、結果を発表する為に部屋をモニタールームに移動しましょう。折角なので皆さんも一緒にどうぞ」


正門さんは、教室の扉に手をかけながら微笑んだ。


「結果発表は見に来ても来なくても結構です、興味のある方だけどうぞ。別に、猫芥子さんや日向さんとお友達でもない方達は興味がないでしょうし」


最後に正門さんは冷たく言い残して日々垣さんと教室を出た。

僕はすぐさま立ち上がってついていく。マサムネもほぼ同時だった。

ゆっくり立ち上がった猫芥子が僕の方を見た。


「亀君、俺より結果気になってない?」


「お前はもっと結果が気になってもいいはずだろ。ほら、いくぞ」


「わ、私も...行く」


予想外にも隣の席の初城も立ち上がっていた。


「わ、私も結果が気になるから...」


「私も行こっかな。委員長としてクラスメイトの頑張ったTKB結果を見届けたい」


春川ちゃんも立ち上がった。

僕を見て微笑む春川ちゃんに、クラスの人達が次々と声を上げて行く。

結局、クラス全員でモニタールームに行くことになった。


「こんなクラス総出でこんでも...」


呆れた様子の猫芥子に、


「猫芥子とマサムネのTKBの勇姿を皆に見せてやろうよ!」


わざと元気に声をかける。

その様子を見て猫芥子は、切なそうな顔をした。


「亀君は、今どちらが勝ってもいいと思ってる?」


「...そんな事は考えていないよ。僕はどちらが勝ったら、とかは考えないようにしたよ。僕はどっちが勝っても嬉しいし、同じくらい悲しい」


そんな優柔不断な僕に、猫芥子は顔を見ずに言った。


「君は、俺が勝っても本当に喜んでくれるのかな?」


「な、何言ってんだよ。当たり前だろ」


僕より先にスタスタ歩いてしまった猫芥子に、その様子になんだか胸騒ぎがした。

さっきの、どういう意味だろう。

考えている暇はなかった。左の視界がフラフラで倒れそうなマサムネを捉えたからだ。


「マサムネ!?」


歩くのも辛そうなマサムネに駆け寄って体を支える。

あぁ、なんでもっと早く気が付いてあげられなかったんだろう。


「マサムネ!?大丈夫か?フラフラじゃないか!?」


「あ、あれ、確か、あぁ、亀有殿か...」


僕の事も意識が朦朧としているようでちゃんとわかっているのか不安定な感じだ。


「結果発表のモニタールームまで肩をかすからゆっくり行こう」


「私も手伝うよ!」


春川ちゃんが駆け寄って来て、支えるのを手伝ってくれた。


「本当に、無理したんだなマサムネ」


マサムネは、ふっと微笑んで、


「そりゃ、命がかかっているでござるからね。でも、途中からはそんな事どうでもよくて、ゲームが面白いから熱中してたよ。気が付いたらこうなってたでござるよ」


掠れた声で答えるマサムネに、


「君って人は...自分の体のことは御構い無しでゲームをしていたんだね...猫芥子君の様子を見る限り、君の勝ちは確定といってもいいだろう」


春川ちゃんが、真剣な面持ちで言うと、マサムネは、弱々しく微笑んだ。


「そうじゃないと困るでござるよ...本当、はは」


乾いた笑いを漏らしたマサムネに、僕は猫芥子の様子と比べてゲームでこれだけ衰弱しきっているマサムネが負けることはないだろうなと思ってしまった。

でも猫芥子のあの少し余裕のある感じ。あれはなんだ。

違和感が頭の中を駆け巡る。


それは、モニタールームを目の前にした今でもぐるぐると、ぐるぐると駆け巡っていたんだ。

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