俺まだ死にたくないからさ

「聞いたよ。委員長達のTKB終わったんだってね」


猫芥子の部屋で、ゲームの画面を二人で見ながら話し合う午後21時。


「うん...まぁな」


「TKB始まる前から勝ち負けが決まっちゃうなんて、ちょっとおかしいよね」


軽い調子でいう猫芥子とは対照的に、僕の表情は曇っていた。


「なぁ、猫芥子」


「んにゃ?」


「猫芥子のTKBにも、何か特別ルール、ハンデがあるんじゃないのか?」


「.....」


スッと笑顔が消える猫芥子に、


「やっぱり...そうか。猫芥子それが猫芥子に有利なルールな事はなんとなく今回の対戦内容が"ゲーム"って事と対戦相手のマサムネが"ゲームの天才"って所からわかるけどさ。それで調子に乗って勝負のレールを踏み外したりしないでくれ。わざと負けるような事をしたりとかさ」


真剣に猫芥子を見つめると、


「心配なさんな。俺は大丈夫だよ。なんていったって暇つぶしの天才猫芥子様だからにゃー!」


いつものようにおちゃらけて笑う猫芥子に少し安堵しながら微笑むと、猫芥子もフッと微笑んで、


「ありがとね。亀君」


「なんだよ、気持ち悪い」


僕は、猫芥子のTKBを応援したいと思う。

でも、昨日桃花さんが退学して消えていった時、TKBを行うと必ずどちらかがあんな風に消えてしまうという事を再確認して震えた。

猫芥子か、マサムネか。

僕はどちらにも退学してほしくない。

どうしたらいいんだ.....どちらにも、退学して欲しくない?

そうだ。その手があったか!!


「そうだ!猫芥子!!」


「うわぁ!!何だよ亀君やめてよ」


「どちらも勝ち負けもしなければいいんだよ!!」


「え?どういう事?いきなりどうしたの?」


「だから、引き分けにすればいいんだよ!TKBをさ!」


何でもっと早く思いつかなかったんだろうか!!


「引き分けか...その発想はなかったけど。引き分けになるとどうなるんだろ」


ふむ、と顎に手を当てて考える猫芥子に僕も俯いて考えた。


「引き分けになったらTKB自体そこで引き分けという結果として終わりになるんじゃないか?そしたらどっちも消えなくていいじゃないか!」


「へぇ、でも今回のTKBってどちらがより才能あるものに育成できるかっていう対決なんでしょ?合わせられるかな?」


「大丈夫だ。亀有君毎日運動して痩せてきたし、マサムネと話し合ってなんとか引き分けに持ち込む事できないかな?マサムネの進み具合にもよるけどさ」


「そうだね。どっちかが合わせないといけないもんね。でも一応明日TKB管理委員会の人達に引き分けになったらどうなるか、聞いた方がいいんじゃない?」


猫芥子は珍しく真剣に真剣な提案をしてきた。


「.....確かにな、ありがとう明日聞いてみるか」


***


「引き分け.....?そんな事を聞いてくる人は今までに一度もいませんでしたね」


図書館にいた正門さんを呼び止めて聞いた所、正門さんは目を見開いて面白そうに微笑んだ。


「どうなんですか」


「んー、そうですね。引き分けになるとそのTKB自体は無効になります」


「それじゃあ!!」


「その後同じ二人で全く同じTKBを勝敗がつくまでやってもらうことになるのである意味普通に勝ち負けがついた方が両者にとっては安心かもしれませんね」


「もういいです」


スパッと話を切って立ち去った。

何かいい方法はないんだろうか。

二人とも、助け出せる方法はないのか?


***


「そっかー、やっぱりか」


その夜、今日も猫芥子の部屋でゲームをしながら正門さんに聞いた事を伝えると天井を見ながら目を閉じる猫芥子は、


「ま、仕方ないじゃん?そういう事なら勝負しないとさ」


「でももう勝負までもう時間ないのにやっと亀有君ハローワークでサラリーマンに就職したばっかりじゃないか!」


「俺はギリギリになって本気出すタイプだからさ」


「そんな余裕バンバンの調子じゃ危ないぞ本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫だよ。俺には亀君がついているからね」


僕には、少し違和感があった。

この感じ、なんとなく味わった事がある。


あぁ、思い出した。

TKBが始まっているっていうのにほとんど何もしようとしなくて、花咲先生がやる気を出して色々提案してやっとやる気を出していた春川君に似ている。

春川君は、勝負を諦めている様子だった。

猫芥子のこの感じも、勝負を諦めているからなのか?


「猫芥子!!」


「ウォッ!何?」


「勝負を諦めたりなんて、してないよな?」


真剣に真っ直ぐ猫芥子の目を見る。

嘘をついた様子が少しでも見られたら見逃さないように。

だが、猫芥子は予想外にも自信と余裕の笑みを見せた。


「それはないから安心してよ、俺まだ死にたくないからさ」


「そ、そうか」


何だか猫芥子から違和感が拭えない。

なんだこの違和感の正体は。

安心して見ていられない、このモヤモヤとした気持ち。


「明日から俺本気出すからマジで。スパルタで亀有君を叩き上げるからさ。ここまで一緒にいてくれてありがとね。でも俺亀君といるとどうしても一緒に遊びたくなっちゃうから明日からは一人でゲームするよ」


猫芥子はニカッと笑って僕を見た。


「今日からで間に合うのか?」


残り六日だぞ。

一週間切っているんだぞ!?


「あぁ、問題ないよ。むしろ日にちが短い方が俺としても燃えるからね」


猫芥子はそれから、一人でゲームをするようになっていた。

僕は何か手伝う事はないかと聞いたりもしたが、扉の向こうから「大丈夫だよ」と帰ってきた。


毎日亀有君の様子を見に猫芥子の部屋に通っていたのでなんだか一日が早く感じる。

猫芥子と深夜にゲームをしなくなってから早三日が過ぎた。


猫芥子とマサムネのTKBの対決当日まで残り三日。

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