お人好し

「ちょっと!桃花愛子がいるじゃない!見つけたなら見つけたって言いなさいよ!」


アイはプンスコ怒りながら彼女と僕を交互に見る。


「あぁ、見つかったよ。見つかったけど色々な事がありすぎてパンクしそうなんだ」


「どういうことよ」


アイが腕を組んで桃花さんを見る。


「あぁ、確かあなたは、そう初城さんだっけ?私達のTKB開催するぞって時に何かよくわからないけど私に絡んできた人か」


「何こいつ捻り潰してパンに混ぜてヤギにでも食わせてやりたいわね。やっぱり嫌いよ。人に好かれる天才なんて嘘ね」


初城は、人に嫌われる天才だ。

普段は大人しくてどちらかというとおどおどしている性格だが、二重人格故にストレスがたまるとこうして毒舌を吐く攻撃的な"アイ"という人格へと豹変する。

初城は、自分の才能を嫌っている、憎んでいるように思える。そりゃそうだよ。

人に嫌われる天才だなんて、酷すぎる。

それ故にきっと、人に好かれる天才に、どうしても憎まれ口を叩いてしまうのだろうと思う。

嫌っているかはわからないけど、羨ましくてたまらないだけだと思う。


さっきまで話していた事を初城に伝えると、初城は、眉をひそめて春川君を見た。


「委員長が、人に好かれる天才で、そいつが演技の天才...って事?」


「そうだよ。俺が人に好かれる天才なんだ...騙しててごめん」


申し訳なさそうに俯く春川君に、初城は目を泳がせた。


「...人に好かれる天才。あなたが、そう。何故かしら。何故なのかしら。それだけで憎くて、羨ましくて、妬ましくてたまらないはずなのに、何故か、何故だかわからないけれど、それが、あなたの才能なのかしらね。あまりあなたの事嫌だとは思わないのよ...」


口に手を当て動揺を隠すように俯く初城に、


「私の時は目の色変えて攻撃してきたのにね」


じろっと初城を見る桃花さんに、


「アイドルの分際で心が狭いわよ」


「言ってることめちゃくちゃだなこの子!」


桃花さんが頭を抱えているが、それは僕はもうなれているし、初城の平常運転なのでツッこまない。


「まぁ、私アイドルじゃないんだけどね」


手をひらひらと振りながらにっこり笑う桃花さんに、時間が一瞬止まった気がした。


「え、今、なんて?」


「そのままの意味さ。私は演技の天才だからね。世界的アイドルの桃花愛子さんになりきってただけだよ。気持ちよかったー!」


僕達は目を丸くして動けなかった。

学校に世界的アイドルがいて、クラス中が驚いていたにも関わらず、それが世界的アイドルの演技をしていた一般人で、しかもそれをクラスメイト全員が信じてしまうという状況に、僕達はいたのだ。


流石だ。

流石演技の天才だとしか言えない。

完璧に世界的アイドルだとクラス全員に信じ込ませていた。


「すごいだろう?私は桃花愛子じゃない。ただの一般人だよ」


「皆ぽかんとしてさ、何よその顔。面白いなぁ、さて、こっからが本当のネタバラシだ」


まだあるのかよ!?

春川君の顔が一気に曇る。


「全部嘘だったって最初に言ったよね?それに関係してくる事なんだけどさ」


「嘘?」


アイが、腕を組んで春川君を見る。

春川君は、苦しそうに目をそらした。


「このTKB、表向きは人気投票だけどさ今回もやっぱりハンデ、特別ルールがあったんだよね」


「特別ルール...」


僕のTKBの時もあった、特別ルール」


「私達の特別ルールは、「才能の交換」だった。春川君が演技の天才って事にして、私が、人に好かれる天才って事にする。そうして、人気投票で票を勝ち取った方が勝ちというTKB」


「成る程。人に好かれる天才である春川君が人気投票は圧倒的に有利だから、それを他の人に人に好かれる天才は桃花さんだと信じ込ませ、春川君は嘘つきだと思われても春川君は人気投票で勝ちを得る事が出来るかという勝負──」


だから、あの時クラス全員に桃花さんは自分を世界的アイドルだと信じ込ませる演技までして、人に好かれる天才を演じたんだ。


「でも今回は私も強すぎた。だからもう一つ特別ルールがついていたのよ」


春川君は、顔を背けた。


「私が演技の天才で、委員長が人に好かれる天才だと他のクラスメイトにバレたら、私の負けで退学っていう特別ルール」


「そんなのこっそり委員長が他の人に言ってしまえば負け確定じゃない」


初城の言う通りだ。


「いいえ、だから追加ルール。もし春川君が自分から「人に好かれる天才だと言ったり、私が演技の天才だと匂わせるような発言をしたら春川君の負け」というルールも追加されたの」


春川君はそのような事は全く言わなかったし、むしろ桃花さんがその事実を自分から話そうとした時止めようとしていた。


「彼女はお人好しだからね。バカだね全く。話すのを止めさせようとするなんて。むしろ私から話すように誘導させるべきなのに」


「.....」


「人に好かれる天才って大きな宝石をもらった私は一人ぼっちでチラシ配りをして、演技の天才なんて嘘つきの石ころをもらったあなたが三人で仲良く協力しあってるのを見てムカついて、羨ましくてポスターを破った」


桃花さんは、泣きそうな声ででもはっきりと、言葉を紡ぐ。


「そんな格好して、私のファンの人がやったって、嘘ついて庇って、バカみたい本当にお人好し」


「ごめん桃花さん」


「謝らないでよ、馬鹿みたいだろ。それに私は、桃花さんじゃないんだよね。ただの地味な一般人だ。君みたいな人と勝負できてよかった。ムカついたけどね」


春川君は、泣きながら桃花さんに近寄った。


「私のせいで、あなたを傷つけてごめんなさい」


「最後までそんな事言うんだ...私の負けだよ、さよ」


パンと音がして、プシュウと風船が萎んだように目の前の彼女はいなくなった。




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