嘘つけないよね君って

「やっと追い詰めたわ...」


肩で息をする僕と初城の目の前で、階段の踊り場に追い詰められる雅ヶ坂(?)。

というのも、雅ヶ坂が上へ上へと逃げていたから僕と初城が二手に分かれて初城が上の階に、僕は下の階から追い詰めただけなんだけど。


「あなた、雅ヶ坂さんじゃないでしょ」


はっきりとした、信じられない初城の問いに、雅ヶ坂は


「どこをどうみても私は私だろう?どうしてそんな事を言うのだ?」


「こうして私達に追い詰められている時点で貴方は雅ヶ坂さんじゃないわよ。本人だったら逃げる必要がないじゃない」


「そ、それはと、突然猛獣のような目で先生が追いかけてきたらびっくりして逃げてしまうだろう?」


「こいつの目はいつもこんな感じよ。いちいち逃げていたらきりがないわ」


「僕一言も発してないのに何か間接的に傷つけられてません?」


「先生なんて言い方してもだめよあなたは偽物なんでしょう」


「偽物...何の事だ」


「しらばっくれてもダメよ。この学校変な天才がわんさかいるんだからどっかに「他人になりきれる天才」みたいなのがいても別におかしくないのよ!」


他人になりきれる天才...?

僕は少し違和感を覚えた。


「そんな事あるわけないだろう?先生と私が仲がいいからって初城さんは嫉妬しているのではないか?」


「そんな事どうでもいいのよ!さっさと偽物は偽物らしく!」


初城がズンズンと雅ヶ坂(?)に向かっていく。


「もういいよ。本人がそう言ってるんだからさ」


偽物だろうが偽物じゃなかろうが僕にはどっちでもよかった。


「僕は、ポスターをビリビリにした奴が知りたい。花柔木が一生懸命作ってくれたポスターなんだ。雅ヶ坂が偽物とかそうじゃないとか、そんなことはいいんだ」


「何言ってんのあんた、そのポスターをビリビリにした犯人が桃花さんで、その桃花さんが他人になりきれる天才だとしたらこうして雅ヶ坂さんになりきって私達に話しかけている可能性があるのよ」


ビシッと雅ヶ坂(?)指を指す初城に、僕は訳が分からなくなった。


「ポスターを破いたのは、桃花さんのファンの人達じゃ...?」


「自分から目をそらすために嘘をついたに決まっているじゃない」


初城は呆れたように僕を見た。


「じゃなかったら──こんな風に変装して私達のもとに現れてわざわざファンが、なんて言わないわよ」


「そ、そんな...でも、どういうことなんだ?雅ヶ坂が桃花さん?桃花さんの才能は聞いた限りだと人に好かれる天才じゃなかったのか?」


「それも嘘だった可能性もあるのよ」


どういう事かさっぱりわからない。

どこからが本当でどこからが嘘なのか。

僕の目の前にいる雅ヶ坂の姿をした人は誰なのか。

人になりきれる天才...その才能を僕は知っている。


雅ヶ坂は、俯いて何も言わなくなってしまった。


「もうこんな嘘をつくのはやめたらどうなの」


「嘘...か。はは、失敗しちゃったな」


それは聞き覚えのある声だった。


「春川君、何で?どういう事...?」


僕は、雅ヶ坂の姿をした春川君に詰め寄る。

雅ヶ坂の姿をしていたのは演技の天才である春川君だった。

初城の読みは外れていた。

初城の読みとしては、桃花さんが本当は演技の天才で、雅ヶ坂になりきって嘘をついているというものだったが、実際は本当の演技の天才である春川君が雅ヶ坂になりきっていたんだ。


いつから?どうやってすり替わった?

いろんな事聞きたいこと色々あったけど僕は、


「花柔木さんのポスター破ったの、春川君じゃ、ないよね?」


一番の疑問を口にした。

春川君は、苦しそうな顔をして、


「.....あぁ、俺だよ」


僕を見た。彼の顔は今にもヒビが入って散ってしまいそうなくらい苦しそうで辛そうで、


「どうしてそんな事したんだよ!!」


思わず叫んで肩を掴む。


「どうせ勝てないよ、アイドルだし。俺は恥をかきたくないんだ。こんな世界、もう俺は我慢できない。勝ち残りたくない。死にたいんだ」


「そんなの嘘だ...皆で頑張ろうって言ったじゃないか。やっと僕と花柔木さんと春川君で協力してTKBに挑もうってところだったのに、何で、こんな事したんだよ」


そんな投げやりな春川君を僕は見たくなかったし、今まで一緒に過ごしてきて彼は全然そんな感じじゃなかった。

何か心境の変化があったんじゃないのか?

僕達には言えないような、知らなかった何か変化が彼に起こっていたんじゃないのか?


僕の問いに春川君は答えなかった。

俯いて黙ったままの彼に、


「本当に、嘘つけないよね君って」


初城から発せられたのは、初城の声ではなかった。


「私と違ってさ。これくらい上手くやらなきゃだめだよ」


僕の隣にいた初城の声も、雅ヶ坂の声から春川君の声に変わった時のように初城の声とは違うものだった。


「どういう事だ?初城?」


「まさか...だめだよ話しちゃ!やめなよ!やめて!」


春川君が必死の形相に変わりなにかを止めようとしている。


「さて、そろそろ話そうよ春川君。桃花愛子こと私の、私達の偽りだらけのTKBの話をさ」


初城の顔をしていたのは、桃花愛子さんだった。

僕は、訳が分からなくて頭を抱えた。

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