お前今日ノーブラじゃないじゃん

「アイ、犯人わかったよって、それ本気で言ってんのか!?」


「...えぇ、何でそんな嘘をつく必要があるのよ」


「もしかしてポスターを破いてるやつを見たのか!?」


「いいえ。そんなの一人しかいないからよ」


「一人しか、いない?」


僕を見ずに話すアイは、スタスタと僕を横切って教室を出ようとした。


「ちょ、ちょっとどこ行くんだよ!?」


「決まっているわ。犯人の所よ」


そこでやっと僕を振り返ったアイに、泣いている花柔木さんと、泣きそうになりながら花柔木さんの背中をさする春川君を見て頷いた。


「僕も行く」



***


「ところで、誰なんだ犯人って?」


ずんずん早歩きで進んで行くアイの後ろをついていきながら、僕はどうしても気になった事を問いかける。


「...それは」


「亀有君、初城さん教室はそっちじゃないぞ」


僕達の正面からおっぱいを揺らしながら歩いて来たのは、雅ヶ坂だった。


「あぁ、雅ヶ坂!おはよう。実は朝から色々あってさ、僕達ちょっと...」


「桃花さんを見なかった?雅ヶ坂さん」


僕の言葉を遮って、アイが少し強めの口調で問いかけると、雅ヶ坂は首を傾げた。

なんで桃花さん?


「いや?見ていないが。それより色々あったというのは何があったんだ?」


「僕達が昨日学校中に貼っていたポスターが、昨日のうちにビリビリに破かれてトイレに捨てられていたらしいんだ」


「何だと!?委員長達が配っていたポスターやチラシをか!?酷い事をする人もいるのだな!」


「だろう...今からその犯人を初城と捕まえに行く所だ」


「それは呼び止めてすまなかったな。あ、そういえばなんだが、私に少し心当たりがあるぞ」


「心当たり!?本当か雅ヶ坂!」


僕が驚いて思わず雅ヶ坂の両肩を掴むと、雅ヶ坂がそれをかわすようにくるりと僕に背を向け、


「あぁ...あれは昨日の放課後だったな。桃花愛子のファンの奴らがぞろぞろとトイレに消えていくのが見えたんだ」


「あっ!そうか!!桃花さんが勝てるように春川君のポスターを...」


「その線が濃そうだな...全くなんて卑劣な奴らだ!それだと今までの事に全て説明がつくだろう?」


「そうだな。桃花さんのファンの奴らは、応援している桃花さんが勝つ為に花柔木さんが描いた春川君のポスターを外して周りビリビリに破って放課後トイレのゴミ箱に捨てた」


そうだ、桃花さんアイドルの(チェリー)には、熱狂的なファンが多数存在しているとネットニュースでも話題になっていた。

今回のTKB、桃花さんが勝つ為に相手を陥れる事は普通にしてしまいそうだ。


「早速皆に知らせないと!!ところで雅ヶ坂」


僕は、そっと雅ヶ坂に顔を寄せた。


「な、なんだ突然!?そういう事普通にしてくるのか!?」


「何言ってんだよ雅ヶ坂。ところで今日はどうしたんだよ雅ヶ坂」


「な、何の話だ?」


「何の話って....お前今日ノーブラじゃないじゃん」


「ふぁああ!?ど、どこを見て...」


「こそこそ何話してるのよ」


アイに頭を鷲掴みにされた。

爪がギリギリと僕の頭皮に食い込み悲鳴をあげている。


「あ、いや...その、雅ヶ坂が今日ちょっと様子がおかしくて」


「様子がおかしい?あら、奇遇ね。私もそう思っていたのよ」


「え?初城もか?」


雅ヶ坂が変態の天才故に常に興奮を覚える為に全裸制服で登校している事をアイは見抜いていたというのか!?


「えぇあなた、珍しく気がつくじゃないの。カメムシと同じ考えという事に若干の不快は覚えるけれどね」


「だから僕の名前は(以下略」


「ど、どういう事だ?違和感ってなんだ?」


アイの威圧的な態度に胸元を隠しながら後ずさる雅ヶ坂。


「どういう事も何も、それがもう違和感ある行動なのよ」


「.....あっ!確かに」


変態の雅ヶ坂だったらこういう時は逆にもっと前に出るはずだ。

興奮する!とか言って胸を張って近寄ってきそうなものなのに!


「いつものあなたならこいつの事をカメムシって言った時点で「なんて事をいうんだ!」と割って入ってきそうなものなのだけれどね」


僕の心...汚れてんのかな。

雅ヶ坂に心を汚されてる気がする。

しかもそんな美しい発想が僕にはなかったんだけど。


「...た、たまたまだ。それより違和感というのが気になってしまってね」


「それともう一つあるわ。あなたさっき「応援している桃花さんが勝つ為に花柔木さんが描いた春川君のポスターを外してファンの人達が破いて捨てたと言っていたわね。でも、あなたはあの二人共ここ数日全く関わっていなかったじゃない。どうして花柔木さんが描いたポスター、だなんて言えるの?」


「それは...花柔木さんが」


「決定的な事がもう一つ。あなた最初にこれの事「亀有君」って言ったわね。雅ヶ坂さんは、これの事を気色悪く「先生」って呼んでいるのよ」


「.....雅ヶ坂今日熱でもあるんじゃないのか?」


僕が心配して雅ヶ坂に近寄ると、


「近寄るな!そっち側の癖に」


怒りの表情を見せながら雅ヶ坂は僕達を睨みつけた。


「雅ヶ坂、本当に体調が悪いんじゃないのか?どうしたんだ今日は」


「能天気な頭ね。こいつは雅ヶ坂さんなんかじゃないと思うわよ」


「どういう事だ?そうか!双子か!雅ヶ坂には双子がいたのか!」


変態じゃなくてちゃんと下着をつける方の姉妹がいるんだ!


「こんな変なのに双子がいたら溜まったもんじゃないわよ」


「あんたは恐らく──」


アイの言葉を遮るように、くるりと背を向け雅ヶ坂は僕達に背を向け走り出した。


「逃げたわ!追うわよ!」


急展開すぎてついていけないんだけど!?

どうして僕は今アイと雅ヶ坂(?)を追いかけてるんだ?


途中で犬飼先生とすれ違った。


「おーい、もう朝のHL始まっちゃうんだけど?」


いつものようにやる気のない声色の犬飼先生に、


「これが朝からちょっと委員長の仕事があるから朝のHLはキャンセルするわ!」


走りながら「ちょっと今日のピアノのお稽古キャンセルするわ」みたいなノリでキャンセルしちゃったアイ。


「いやいやダメでしょ朝のHL出ないと遅刻は厳禁だからねこの学校は下手すりゃ退学に」


「退学は困る!」


僕はアイの腕をひっつかんでブレーキをかけさせた。


「ちょっと!あの嘘つきを追わな」


必死のアイの訴えは、犬飼先生の隣を風のように通り過ぎた人物が吹き消した。


「委員長のお仕事なら仕方ないんじゃない?先生」


正門さん、理事長の娘にしてTKBの管理委員長がにっこりと犬飼先生に笑いかけた。


「えっ...いいんですか?」


「えぇ、それにTKB参加者は優遇されますし、"彼女も"出なくてもいいと思われます」


「え...は、はぁ」


犬飼先生は、困ったように僕達を見た。


「だってよ」


アイは、その言葉を聞くなり逆に僕の手をひっつかんで走り出した。


***


「いいんすか?」


犬飼が頭をかきながら正門に問いかける。


「結構ですよ...ふふ、亀有君が関わるとなにもかも面白くなるんです。ふふ、ふふふ邪魔せず私達は見守りましょう」


「は、はぁ...」

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