花柔木さんの才能...ってそういやなんなんだ?

「亀有!ちょっと!」


聞き覚えのある声に振り返る。

やっぱりだ。

サイドテールを揺らしながらずんずんと早歩きで近づいてくるのは、ヤンキー女子こと花柔木乙女さんだ。


「な、なななんでしょうか」


「ちょっと顔かして」


わかってるでしょって顔で僕を引っ張る。

なんでしょうかって、あの件に決まってるよなぁ。

お約束、人気のない屋上に腕を引っ掴まれて連れてこられた僕は、もじもじと空を見上げたりうつむいたりするさっきの堂々とした態度とは打って変わった花柔木さんに、どうやって、春川君の事を伝えようか考えていた。


「で、どうだったの!?春川君の事..聞いてくれたんだろ!?」


「うん...まぁ」


歯切れが悪そうな僕に、花柔木さんの表情が曇った。


「.....だめだって?」


「あ、いや、そ、そういうわけじゃないんだ。そうじゃなくて、さ」


「なんだよ、はっきり言ってくれ。覚悟はできてんだ」


覚悟はできてるって.....そんな捨てられそうになってる子犬みたいな顔されても。

そんなに好きな人に協力したいんだな。花柔木さんは、乙女だなぁ。

まぁ、そうだよな。TKBで負けたら退学だしな。退学したら、共に過ごした人達の記憶にさえ残らなくなる。


「春川君は、協力っていっても花柔木さんは何をしてくれるの?って言ってたよ。それが明確になれば.....」


「なるほど....うんうん!なるほど!確かにあたしが何をしたらいいのか、何ができるのかずっと考えてたんだけど、それを提案すればいいのか!」


「もう考えてあるの!?」


「あるぜ!あたしの才能をフル活用してな!」


花柔木さんの才能.....ってそういやなんなんだ?


***


放課後──夕方の教室。


カリカリカリカリとペンの心地よい音だけが響く教室で、僕と花柔木さんは隣同士に座って.....凄まじい勢いで花柔木さんの才能である「少女漫画」が出来上がる様を見ていた。


「ほらよ」


「すげーーーーーーーーー!!!!!」


まさかこの花柔木さんが、少女漫画の神と呼ばれた「花咲恋(はなさきれん)先生」だとは。

ネット上で小さな子供から大人まで男性に至ればまさかのお年寄りまで面白い、泣ける、感動すると言われる少女漫画を描き続ける伝説の先生が今ここに────。


「何で一昔前のヤンキーみたいな花柔木さんがこんな繊細で美しい少女漫画を描くことができるのか僕は不思議でならないよ。漫画すっごい感動した!」


「てめーあたしをバカにしてんのか褒めてんのかどっちなんだよ」


ちょっと嬉しそうな花咲先生。

大変可愛い。


カリカリと生き物のようにペンを動かすとみるみるうちに可愛い女の子イケメンな男子生徒が恋をして、その友達やその友達がまた恋をして、まるで漫画の中で人々が生きているみたいだ。


「あたしの特技は少女漫画を描く事。これしかねーんだよな。だからさ、あたしポスターを描いて春川君を宣伝しようと思ってるんだ!」


「この画力なら、完璧なポスターができそうだな」


スラスラとスケッチブックに描いていく花咲先生だが、足元の開いたバックから何冊かスケッチブックが垣間見えている。

....見たい。もっと花咲先生の漫画が読みたい!


「このスケッチブックにも漫画が?」


「え?あ....あぁあ!!それはダメェ!!」


自分の背中の方にバッグを隠した花咲先生...なんだ?何が描いてあるんだ?いや、なんとなく花咲先生の性格からしてなんとなくわかるんだけど...。


「もしかして、春川君と自分との少女漫画?」


「.....ば、ばか!ちげーし!バカじゃないの!?死ね!変態!」


初城に言われた以来なんだが....図星なのか顔が真っ赤ですよ先生。

でも死ねは酷いよ。


「そうかぁ、違うのかぁ違うなら見せて欲しいなぁ。証拠として」


「し、証拠なんてねーよ!全然違うし!そんな恥ずかしい漫画!描いてたとしてもお前に見せるわけないだろ!」


ほぼ自爆しましたこの人。


「余計にみたいちょっと見せてください花咲先生!!」


「や、やだ!やめろ!」


「キスシーンとか描いてるの?」


「描くわけないだろばか!そんな恥ずかしい事!手を繋いでる所さえ描いてないんだぞ!」


「えぇ....少女漫画なのに!?じゃあ逆にどんな少女漫画なの」


「.....はぁ、これだから。キスしたり手を繋いだりするのが少女漫画ってわけじゃねえんだよ。恋する相手への心理描写や、まぁ、好きな人に伝えたくても伝えられない気持ちのもどかしさや、読んでいる人が主人公の女の子が恋をする気持ちに共感したり、自分との経験を思い出してドキドキしたり、悲しくなったり懐かしくなったり、乙女のバイブルみたいなもんだからな。そこにキスや手を繋いだりのスパイスを交えて面白くしてるってだけだ」


「確かに花咲先生の漫画には手を繋いだりキスをしたりといった描写は少ない。少女漫画なのに異例の少なさだと言われている程だ。でも、花咲先生の描く少女漫画はめちゃくちゃ面白い。それは彼女の才能がなせる技なのだろう」


「すごいね!花柔木ちゃん!花柔木ちゃんの才能ってもしかして少女漫画を上手く描ける才能?」


ずいっと後ろから僕と花咲先生の間から顔を覗かせたのは驚く事に昼休みトイレ付近でチラシを配っていた桃花愛子さんだった。


「うわっ!?」


「ひっ!?」


「あははっ!二人とも驚き過ぎだよ〜」


突然現れてマジで何の用なんだ?


「何か用かよ」


「いや、別に?たまたま歩いてたら教室に残ってイチャイチャしてる人影が見えたからちょっと覗いてみただけだよ。そしたら二人がいて」


「誰がイチャイチャだよ!こんなカメムシみたいなやつと!」


勢いよく僕を指差す花咲先生に僕はすかさず反論する。


「僕の名前はカメムシじゃなくてカメアリなんですけど!?」


「どっちでもいいんだよ!それより何の用だ?春川君と戦うんだろ?じゃああたし達とは敵同士だ!さっさと帰ればいい!」


格好いいな花咲先生僕より男らしいよな。


「....委員長ね。彼は別にいいよもう。勝つ気がないじゃない彼」


興味ないわというように目を閉じる彼女に、僕と花咲先生は顔を見合わせた。


どういう事だ?

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