謝って

「くっだらないわ!!!」


「にゃっ!?」


大きな声を急に出してバンッと机を叩き立ち上がったのは、俺の後ろの席で心底不機嫌マックスの初城さんだった。

やめてよそういうのやめてよ心臓に悪いんだから


「ど、どうしたの初城さん」


桃花さんは、驚きと若干引いている。


急にどうしたとクラスメイトも初城さんに注目する。

いや本当に、どうしたの?

亀君がいないからおかしくなっちゃったのかな?

前から割とおかしかったけどね。


「くだらないって言ってんのよ」


ズカズカと桃花さんに容赦なく近づいていった初城さんは、桃花さんをぐいっと押しのけて春川君と桃花さんの間に立った。


「今までアイドルってことを隠してきて今更出てきてこいつに勝負を申し込んでちやほやされて満足なわけ?くだらないわ」


「...ど、どうしたの初城さん?急に怒り出して...チェリー困っちゃうなぁ...」


桃花さんは、キョロキョロと周りを見回して他の人に助けを求めているようだが、皆初城さんの迫力に押されて声を出せない。

ちなみに俺は、内輪揉めが好きなので面白いなって思って見ていた。

止めようなんて微塵も思わないね。


「あんたが人に好かれる天才か何だか知らないけど、私はあんたの事が嫌いよ。今まで無条件で愛されてきたんでしょうけどね、ここではそんなの関係ないんだから」


「...嫌い?貴方、私の事嫌いなの?」


震えた声で俯く桃花さんは、どこか様子がおかしかった。


「そうよ、嫌いよ」


「も、もういいよ初城さん」


春川君が、初城さんを止めようと初城さんの服の袖を引っ張るが、初城さんはそれを振りほどいて続けた。


「よくないわよ。そもそもこいつが人に好かれる天才なのかも怪しいじゃない。あんたを陥れる為に嘘をついている可能性だってあるわ」


そこでじっと二人の会話を見ていたクラスがざわついた。


「え?嘘?」


「でもチェリーちゃんはテレビで見るのと一緒だよな完全に本人だ」


「そんな嘘をつく理由は?」


「嘘じゃないよ。私は嘘なんてついてない。私は人に好かれる天才だもん。今までも、これからも、無条件に人に愛され、慕われ、守られ、尊敬され、好かれてきた。嘘じゃないよ。皆は、私を信じてくれるよね?」


桃花さんは、にっこり笑って皆を見回した。


クラスメイトは一旦沈黙する。

そして、お互い顔を見合わせて微笑んだ。


「ですわよね!チェリーちゃんが嘘をつくわけないですもの!」


「そ、そうだよ!あんなに人気者でテレビでも輝いてるのに!!」


「こんなに可愛いチェリーちゃんが嘘をつくわけないじゃんかー!」


あははー、なんだよそれー。ちょろすぎかよクラスの奴ら。

いや、俺以外にも騙されてない人はいるみたいだけどな。

一種の洗脳みたいだ、でも俺は騙されないぞ。

別に女に興味ないし、興味があるのは暇を潰せる事と、面白い奴。


「初城さん、チェリーを嘘つき呼ばわりした事、謝ってほしいな」


にっこり笑って初城を見る桃花さん。

女って怖い。

桃花さんの周りには、後ろには、桃花さんのファン(洗脳済み)が控えている。


「謝りなよ」


「謝るべきですわ」


「どうしてあんな事言ったの?」


「他の人を味方につけないと反論もできないの?」


「謝って」


「そうやって多数決で全てを決める事が一番嫌いなのよ」


「謝って」


「くだらない。許せない。嫌い、嫌いよ貴方、なにが人に好かれる天才よ。それだけで嫌いなのに」


尚も謝って、と笑顔で続ける桃花さんに、初城さんは、辺りを見回して、俯いて、みるみる顔色が真っ青になっていく。

そりゃそうだろうな。鋼のメンタルでもないと、こんな状況でまともでいられないよ。

なにかを振り払うように頭を抑えて、苦しそうにしている初城さんを見て俺はとうとう主人公不在のこの回で俺が動く時が来たと思い腰を上げた。


「やめないか!」


俺より先に初城さんの前に立ったのは、雅ヶ坂さんだった。


「初城さんは、体調が悪いようだ。保健室に連れて行く」


「あ、あたしもついて行くよ」


そこで手を挙げたのが、予想外にも花柔木さん...あの口の悪いヤンキーみたいな人ね。


そのメンバーなら亀君の好きな佐藤さんは...辺りを見回すと、普通にチェリーサイドにいた。そういやちょくちょく発言してるよねこの人!!この人普通に洗脳されてるんだけど!

佐藤さん側の立ち位置に花のないヤンキーが入っちゃってるけど大丈夫?


まぁ、俺の出番ではなさそうだからいいや。


犬飼先生がやってきて授業が始まりやっと落ち着いた。


そして、お昼休憩で折り鶴作ってるところで雅ヶ坂さんに声をかけられたんだよね。


「そしてこうしてお見舞いに行くことになって、こうして君にりんごを食べさせてあげているところだよ。亀君。はい、あーん」


「いいよ恥ずかしい。自分で食べるよ」


***


僕、亀有一人は、一連の話を聞いて腕を組んで考えを巡らせていた。


委員長...と、その誰だっけフルーツみたいな名前の人、が戦うって事だよな。

しかも人気投票で、全校の前で、か。

有利なのはそのフルーツの人だと思うけど、有名人だし、アイドルだし。


僕は、初城を見てこう思った。


委員長には、負けて欲しくない。

僕も話を聞く限りそのフルーツの人は苦手だ。

天使の佐藤さんも洗脳されているとあれば少し厄介だな。


「カメムシの分際で休んでんじゃないわよ」


初城が、俺の口にりんごを押し込んできた。


「食べないと元気にならないぞ、先生」


雅ヶ坂も僕の口にりんごを放り込む。


「早く元気になってね、亀有君」


天使の佐藤さんも僕の口にりんごを差し込んだ。


「はーい、あーん亀君」


だがてめぇはだめだ猫芥子。

口がふさがっていて何も言えない為首を振るしかない。


「2個ほしいの?」


両手にりんごを持って笑う猫芥子に、俺は絶対に早く元気になってこいつに一泡吹かせてやると心に決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます