拙者の部屋へ参ろう

「TKBで負けた相手の記憶は他の人からは消えてしまう。しかも、相手と近しい関係だった人程消えるスピードと消える記憶の量が大きい」


寮の大浴場に浸かりながら、腕を組んで湿気を帯びた白い天井を見上げる。


なんてこったよ。

僕は、TKBで戦った相手と仲が良かった為に相手の事をもうほとんど途切れ途切れでしか覚えていないかつ、委員長の仕事まで渡されてしまっている。

委員長の仕事をしてたってことは、信頼されてて、人気者で、しっかりしてていい奴だったんだろうな。


きっと僕なんかより──生きている価値があった人だったんだろうな。


「あ、あの」


「えわっ!?」


唐突に隣で声をかけられた。

紫の髪に可愛らしい顔立ちの男子生徒。

体育館で意見してた...えっと。


「亀有殿とは一度お話したかったでござる」


ござるヘッドホンだ!

そうだ、ござるヘッドホンだ。

語尾だけで誰かわかるの便利すぎるだろ。

というか、ござるヘッドホンのござるは僕が知ってるオタクが使うござる〜って感じより忍者とかもうそっち系のニュアンスのござるなんだよな、なんか違う。


「えっ...と、ななにかな」


風呂のせいか上気した顔で顔を赤らめて言われるとドキドキするけど、お風呂だからだよね。そうだよね。僕にそういう趣味はないからな。


「亀有殿は、共にTKBで戦っていた委員長殿とは仲がよろしかった記憶がござるよ」


「ん...あぁ、そうみたいだな」


あぁ、僕は覚えていないけど周りの人は覚えているんだな。僕と相手がどういう関係だったのか、というのも周りから見た人は覚えているんだな、


「...はて、そうみたいだな?とは」


「TKBで負けた相手──つまり退学になった相手に関しての記憶が徐々に消えて無くなっていくらしいんだ」


「...あぁ、なんだ。やっぱりご存知なのでござるか」


ござるヘッドホンは、スッと目を細めて先ほどまでの可愛い表情とは一変した鋭い表情で僕を見据えた。


「やっぱり、って...あれ。そういや、あれ。おかしいよな。だとしたら、確かあんた」


僕は、体育館でござるヘッドホンが言っていた事を思い出す。

確か、大学だった生徒を元に戻した世界を作ることができるという話で、不登校の生徒は有効か、と聞いていた。

不登校の生徒は退学扱いだ。

もしござるヘッドホンの知り合いが不登校で退学だとすると、彼はもう知り合いの事を覚えていないはずだ。


「どうして」


「拙者の部屋に参ろう」


相変わらずのシリアス顔でざばっと風呂から出ると僕についてこいよ。と目で言ってくる。


いや、僕まだ入ったばかりなんだけど。

10数えてから出よう。


***


ござるヘッドホンは、風呂から出て髪を乾かし、黄色いヘッドホンを着用する。

春なのに黒い甚平を着て、僕の前であぐらをかいた。

ござるヘッドホンの部屋は趣味で溢れていた。というより、彼の才能が瞬時にわかってしまうような部屋だった。


「薄々感づいていると思うでござるが、拙者はゲームの天才でござる」


「だろうな」


部屋はゲームのグッズやポスター、ゲームでとにかく溢れていた。

まさに夢のような場所だ、僕はわくわくとドキドキがヒップホップしていたが子供っぽく思われたくないので腕を組んで僕もシリアス顔を作り気丈に振る舞っていた。

気丈に振る舞わないとキラキラした顔で踊り出したいくらい楽しい空間だった。オタクにはたまらない。


「部屋に呼んだのはあまり人に聞かれたくない話とかなのか?」


ござるヘッドホンはコクリと頷いた。


「この部屋に呼んだのは、亀有殿が初めてでござるよ」


俯いて、何かを思い出しているような悲しい表情で呟くござるヘッドホンに、


「そっか僕も部屋に呼ばれたのは君が初めてだよ」


「マサムネでいいでござるよ」


「マサムネ?」


「日向マサムネ。親友には──マサムネ殿と呼ばれていたでござるよ」


忍者最強の日向一族の末裔という言葉が出て来てちょっと笑いそうになった。

名前も古風なんだもんなぁ。


「いや友人もその忍者みたいな口調なの」


「忍者?いやいやこれはアキバとかで使われるオタク用語でござるよ〜一般の人はなかなか使う機会がなくわからないと思うでござるが」


ええぇええええ?それオタク用語だと思って使ってたの。見た目の可愛さとなんかイントネーションとかで忍者目指してる系男子かと思ったよ。


「拙者の親友が"オタク"だったのでござるよ」


笑顔が消え辛そうな顔をして俯くマサムネは、何かを思い出すように目を閉じた。


「拙者の親友は、"引きこもりの天才"だったのでござるよ。入学式の時退学になってこの世界から消滅した──」


「引きこもりの天才!?」


覚えてる。入学式の時僕がそれ僕のことじゃないの!?ってツッコんでた記憶がある。


「親友はオタクで、拙者のこの口調も彼の影響なのでござる」


親友は本物のアキバ系オタクだったんだな。


「入学式を欠席したんだろう」


「...親友は、引きこもりの天才。外に出ない事に命をかけていたくらい絶対外に出ようとしなかったみたいでござる」


「それでまさかこの世界から消える事になるとは思ってなかっただろうな」


「いや、親友は入学式に出席しなかったら自分は死ぬ、もしくは何かしら罰を受けるということはわかっていたみたいでござる」


「なんだと?どうやって」


「天才名を明かした黒子が風船みたいに消えた時に、消える時に説明を終えてこの世界の用済みになったから、と言っていたようなのでござる。その時に、入学式に出席しない、神様の意向に背く奴は用済み、もしくはもっと酷い反逆とかの部類に入るんじゃないかって」


そんな事僕は考えもしなかったな。


「マサムネは、その親友の言った事をよく覚えているんだな」


マサムネは、目を見開いて立ち上がるとずらりとゲームが並ぶショーケースの隣にある大きなモニターのPCを起動させた。


「いいや、拙者にはこれがあったからでござる」


パスワードを打ち込み、彼は見せてくれた。

ゲーム内での膨大なメッセージのやりとり、チャットメッセージの長文には、今マサムネが話した事が書かれていた。


「このゲームはチャット履歴が消える式じゃなかった故、今までの親友とのチャットを全て見返したのでござる」


寂しげに言うマサムネはマウスをスライドさせて今までのチャットを見返していく。


「全て見返して思い出せやしなかったでござるが、彼が拙者にとってとても大切な存在だった事は確かにわかったのでござる。このチャット時間を見る限り毎日一日中拙者は親友と会話をしていたのでござる。親友は物知りで色んなことを拙者に教えてくれていたでござるよ。拙者は、これを見返して涙が止まらなかったのでござる」


チャットの中で、引きこもりの天才と言われた彼に学校に来るようにマサムネが必死に誘っている文面が見えた。


外に出るなら死んだほうがマシだという返信を見て、彼は僕と気が合いそうだな、なんて勝手に考えてしまった。


「拙者は、彼に会いたい。彼はボイチャNGだったみたいでござるからな。このヘッドホンは彼とのゲームに勝ってもらったみたいでござる」


黄色いヘッドホンを撫でながら俯くマサムネに、何と言葉をかけていいかわからなかった。


「拙者、単位を獲得してこの学校を卒業して親友に会いたいのでござる。絶対に。彼の事はこのチャットメッセージがある限り忘れないでござるよ。拙者は本気でござる。もうTKBにも申し込んできたでござるよ」


「な、申し込んだのか!?」


こくりと頷くマサムネの行動の早さに驚く。


「明日戦う相手と内容が発表されるらしいでござる。拙者は絶対勝利するでござる。対戦相手は誰でも。にしたでござるからな。


PCのチャット画面を見たままマサムネは口調を強めた。

すごいな。誰でも、だなんて。なかなかできることじゃないぞ。普通は弱そうな相手を指名したり自分が絶対勝てると思った相手を指名するものじゃないのか?


「亀有殿は──」


マサムネは、泣きそうな顔で僕を見上げた。


「神を憎んではいないのでござるか?」


言葉を失う。


「亀有殿の友人を消した神を憎んだりしていないのでござるか?」


あぁ、成る程な。

こんな話、外でしてたら神に逆らってるとか言われそうだもんな。

そうだよな。

マサムネは、恨まないわけないよな。


「憎むとか、憎まないとか、僕は友達の事をよく覚えてないからわからないんだけどさ。果たして憎む相手が神様でいいのかさえもよくわからないしさ、そもそもら僕が勝っちゃったからだし。まだ恨むというところまで感情が追いついてないよ」


まとまってない文章で我ながら何を言っているかわからない。


「そっか」


しゅんとしたマサムネは、無理をして微笑んだ。


「また、落ち着いたら共にゆっくり話そうでござるよ。今日は、ありがとうでござる。明日の発表で亀有殿とは戦いたくないでござるな。当たらないことを祈るでござるよ」


自分の部屋に戻った僕はベッドに倒れこんだ。

マサムネは、きっと友人を失ったであろう僕に共感を求めていたのだろう。

神様を憎んでいるであろう僕に声をかけたのだろう。

だが、マサムネは共感を求めた後にどうしようとしていたのだろうか?

色々な感情が入り混じり、僕はそのまま深い眠りについた。

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