天才は、いいな

当日僕は、ぐっすり寝た。

予想外だろう?

テスト中に寝てしまうんじゃないかということを恐れ、仕上げの勉強をしたのちにベッドに入った。


朝は少し早めに目が覚めたので食堂に行く事にしたんだけれど、食堂には、当たり前だが沢山の生徒がいて元引きこもりでコミュ障で、色々あった僕は大勢の人がいる場所が嫌いなので回れ右をして部屋に帰ろうか、そんなことを考え眉をひそめた。


「亀有君!」


そこへ堅道が早歩きで近寄ってきた。

満遍の笑みで、顔をぱあっと輝かせて近づいてくる堅道に、たじろきながらも回れ右した足を止めた。


「どうしたんだい?亀有君!食堂に自分から来るなんて珍しいじゃないか!ん?改心して僕のいう通り朝早くに起きることにしたのかい?ん?大変いい心がけだと思うよ。素晴らしい。さぁ、食堂のマダム達が作ってくれるぞ!朝ごはんにしよう」


やかましい。

だが、なんだか断りずらいからついていくことにした。


「既に僕は取り分けてきた。バイキング形式だ。君も好きなものを持って来るといい」


僕は、席に着いた堅道の皿に乗った食べ物を見て驚愕した。


いやいやいやおまっ...朝からミートソーススパゲッティと、ハンバーグと、オムライスと、唐揚げと、えっちょっ...えぇえ...。

どんだけ食うんだよというかまずメニューのね、その、あれだよ。

子供か!!可愛い奴だなお前!見た目はガリ勉野郎なのに!

首に丁寧にナプキンかけてんじゃねえよ!


「えぇっ...うん」


「なんだ?バイキングは初めてか?付いて行こうか?」


「僕は子供じゃねえんだよ!」


子供はお前だよ。

と言ってやりたかったが、グッとこらえ朝食バイキングの列に並ぶ。


「あ」


「お」


そこで思わぬ人物。

丁度バイキングのトレーを手に取る初城に遭遇した。


「か、...亀有、君今日は、頑張ってねテスト」


ふぁいと、とガッツのあるポーズをして笑う初城は、可愛い。

初城は可愛いんだ。二重人格のアイがちょっと性格に難があるだけで。


「あぁ、頑張るよ。ありがとう初城」


「ふふ....ふふふ...ふふふふ」


すると、突然トレーを片手に持ちかえ眼鏡を取り不気味に笑いだす初城。

いや、まさか。


「今日で退学決定おめでとう。もうあなたに会えないと思うととても悲しい気持ちよ。ふふ、あの世でもお元気で」


にっこり笑うアイに、ありがとうと笑いかけた僕は一気に無表情になる。


「おい、まだ死んだと決まったわけじゃないぞ」


「あら、そうね。放課後も随分楽しそうに勉強会してたものねぇ」


僕もトレーを手に取り、初城の隣に並び目の前のポテトサラダをトレーに乗せる。


「まぁ、楽しかったには楽しかったけどさ」


「放課後に女の子と二人きりで勉強会とか、飛んだ変態ね。逮捕案件だわ」


「なんでだよ!教えてって雅ヶ坂に言われたんだよ!逮捕案件じゃねえよ!合意の上だ」


むしろ僕の方がセクハラされてたっての。


「雅ヶ坂?...へぇ、随分と仲良くなったようね。よっぽど楽しい勉強会ができたんでしょうね」


皮肉めいたことを言って引きつった笑いを浮かべるアイ。

...何か、機嫌悪くない?

気のせいか?


「まぁでもクラスでなんだかんだ一番話しやすいのはお前かな」


「は?」


「ごめんなさい」


光の速さで謝った。

女子にそんな事を言ったらもう僕みたいな奴は気持ち悪い童貞が可愛い女子に話しかけた罪で逮捕されますよねごめんなさい。


「何で謝るの」


困ったような顔で僕を見るアイに、


「いや、だって気持ち悪い事言っちゃったし」


絶対罵詈雑言を浴びせられる!


「え?あ、何が?」


「え?」


何故だか話が噛み合ってないみたいだけど、あれ?


「....それより、本当なの」


「何が?」


言いづらそうに、目をそらしつつアイは僕をちらちら見るが、突然何だ。何がなんだかさっぱりわからない。


「何がって、一番...その、話しやすいのはって」


「え?」


「だ、だから...一番話しやすいのは私って..」


もじもじしながら聞いてくるが、その話か。

本当って言ったら殴られるかな。

あ、でも手がトレーでふさがってるから蹴られるかな。

やっぱり冗談って言っておきたいけど、嘘ついたらもっと怒られるかな。

僕がいつもやってるゲームみたいに選択肢が出てきてくれたらいいのに。


「本当だけど?」


もういいや...どうにでもなれ!!

目を固く閉じて罵詈雑言罵倒暴力全てを受け入れた。


「ふ、ふぅん。そうなの。へぇ。あぁ、そう。そうなのね」


...なんだよその反応。

どうでもいいみたいな反応じゃないか。だったら最初から聞くなよ。なんだよ恥ずかしい思いをした僕の気持ちを返せ!


くるりと亀有に背を向けたアイは、照れて赤く染まった顔を隠すように俯いた。


(何よ...何よ何よ何よなんなのよ!何よいきなり!いきなりそういう事言うの...意味わかんない...馬鹿だわ。あいつ、本当にばか。変態。


「あっ、あれ?僕、話に夢中でトレーにポテトサラダしか乗ってない!?また並ばないと...はぁあ」


大きくため息をつき、僕は後ろに並び直す。

後ろに並び直すと、


「あ、亀有君おはよう」


佐藤さんがにっこり太陽のような笑顔で挨拶をしてくれた。

はぁ、ため息が出ちゃうくらい可愛い。


「わ....私も」


アイが振り返ると、亀有の姿はなく何故か列の後ろの方で他の女と楽しそうに話している。


「.....あいつ」


髪を逆立て暗黒のオーラをまとったアイは、片手にトレーをもちかえ、一人でひっそりと端っこの席に向かった。

ギロリと亀有と楽しそうに話す佐藤を睨むと、スチャリと眼鏡をかけて静かにサンドイッチを頬張るのだった。


「うぅう!」


「どうしたの?亀有君?」


「いや、急になんか...寒気が」




***


すっかり忘れていた。


「もう僕は食べ終わっているぞ。亀有君」


ナプキンで口をふく堅道に、頭を深々と下げた。


「堅道.....本当にすまなかった」


今日は謝ってばっかりだな。


席について、もさもさサンドイッチを食べるていると、それをじっと堅道が見つめる。


「何だよ」


「今日は、テストの日だな。悔いのないように頑張れよ」


眼鏡をクイっとあげ、僕を優しい瞳で見つめ微笑む堅道に、一旦食べるのを止めて僕も笑いかける。


「お互いな」


「いや、僕は何もしなくても勉強ができるからお前だけだよ」


ははっと乾いた演技じみた笑いをもらす堅道に、僕は食べるのを再開した。


「全くだな」


全くだな。

100点しかとった事がない、勉強をしなくても自然にテストで良い点が取れる堅道は、勉強に関しては本当に努力も苦労もした事がないのだろう。

テスト勉強前の徹夜の辛さ。

テスト期間中のストレス。

受験中の緊張感。


天才は、いいな。

羨ましい。

努力せずに持っている才能があるなんて、僕は心から羨ましいと思っているよ。


「でも、僕だって頑張ったんだ。負けないさ」


力強い瞳で堅道を見つめ返す。

堅道は、自信がなさそうに目をそらし、自嘲気味に笑った。


「さて、僕は先に学校に行こうかな。委員長だからな」


仕切り直しだと言うように息を吐いて立ち上がると、僕に背を向けた。


「亀有君、委員長はどの生徒より誰よりも早く学校に行くものだよ」


そう言い残して。

いや、僕は委員長でも何でもないし、なんか名言っぽいこと言ってるけど別に委員長だからって朝早く行く必要ないと思うよ僕は。




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