わかりやすい天才もいればわかりにくい天才もいるのだ

無事、優遇権を使い、僕は窓際の席に移動することができた。

前の席が、僕の「努力の天才」を名乗っている嘘つき野郎なのが気にくわないが代わりにいい事もある。


教室で馴れ合う生徒達の中、僕は一人窓辺でエッチなライトノベルを読んでいた。

勿論紺色の知的なブックカバーは忘れない。


窓際に移動したおかげで女子が体育の時はノーブラの雅ヶ坂さんを拝むことができる。

その間授業は僕の耳をスルーしていく。


「おい!亀有!」


「うわっ!」


耳元で聞き覚えるある声が、僕を呼んだ。


「なんだよピン....委員長」


「なんだ、ピンって、何と間違えたんだ。寝ぼけているのか?たるんだ顔をしているな」


「たるんだ顔ってなんだよ。あれだよ、ピン......芸人と間違えたんだよ」


「なんだそれは。それと、僕は芸人ではない学生だ」


ピン挙手委員長は、何故かよく僕に話しかけてくる。

一応、天才同士の戦い、敵同士だというのに朝ごはんを食べに来ないとドンドン扉を叩きにくるし、朝起きているか確認にくるし鬱陶しいくらいだ。


わざわざ起こしてくれるのは、本当に感謝しているし、なんだこいついいやつなのか?と思うときもあるが、どうせ起こしに来てくれるなら恩人佐藤さんみたいな可愛い女の子に起こしてもらいたいものだ。

メガネのむさ苦しい野郎にドンドン扉を叩かれ怒られる毎日に、僕はドンドン床を踏みなら「うるせぇ!」という日々だ。

僕は寝起きが悪いんだ。


「んで、何の用だよ」


面倒臭そうにラノベの読んだところを指で挟み聞くと、ピン挙手委員長は眉をひそめて眼鏡を人差し指でクイっとあげた。


「そうだ!どういう事だ!亀有!僕はここ数日、お前の事を見てきたが、本日四月十日まで、一回も勉強しているところをみていない!一ヶ月後に僕との勝負、テストという事をわかっているのか?」


なんだ、そんなことか。


「大体、佐藤さんは勝負するお前より必死に勉強している姿を見るのに、お前はなんなんだ?なんだその余裕は」


「別に....余裕なんてないよ」


「まさか、あの正門さんのいうように僕が不利な状況になるのを期待して手を抜いているなんてことはあるまいな」


「それはないさ」


僕はそんなつまらない事はしない。


「じゃあなんだ?本当に君は退学で死ぬつもりなのか?そりゃ勉学の天才である僕と勝負したら大した才能のない君が退学になるのは当たり前かもしれないが」


いちいちいう事が腹たつなこいつ。

メガネかち割るぞ。


「いや、それもないさ。僕はお前と佐藤さんが戦うのを阻止する為に間に入ったんだ」


「じゃあ、なんで....」


心底不安そうにピン挙手委員長が眉を下げる。


「企業秘密だよ」


僕は、椅子を少し窓際の方へ向けてまたラノベに目を落とした。


「な、なんなんだ?僕には君が理解できないよ......」


理解してもらおうとは思ってない。

あと、何かすごい禍々しい視線を感じる。

僕の後ろの橙色のカーテンにぐるぐるとくるまっている女子生徒。


緑の髪で、耳の下に二つ大きなお団子があり、丸眼鏡をかけ、白い学校の制服の下に赤いジャージの短パンを履いてい女子生徒。

僕とピン挙手委員長が話しているところに現れてはよだれを垂らしブツブツ何かをつぶやきながら頷いている。時折メモを取る動作も見られる。


「ふふ....完全に亀×堅ね...亀は堅の事が大好きなんだけど、素直になれなくてつい冷たくなっちゃうんだけど、二人きりの時は甘々...堅は亀に構って欲しい完全なる受け属性ね。二人きりの時はどうなっちゃうのかしら...捗るわぁ〜」


もろ後ろで何か聞こえてる。

垂れ流してるこの人。


僕は、ポケットから小さく四角に折りたたんだCクラスの天才名の書いてある用紙を取り出した。


これだ。これしかない。

この人.....恐らく。


「あの....」


僕はピン挙手委員長を無視してついにストーカーに話しかけた。


「ひ、ひゃい!」


女子生徒は、カーテンをぎゅっと握りしめ僕を恐る恐る見上げた。


「あの....僕達を見て何か言ってましたよね?」


「へっ?い、いや、あ、えっと...そのし、失礼します!」


わたわたと目を泳がせ、僕から逃げるように立ち去ってしまった。

うーん、恐らく僕の勘が正しければ彼女は腐女子だろう。

そして、天才名は妄想の天才...なんじゃないかと、僕は予想する。

なんとなく当たってる気がする。


「おい、女をいじめてんじゃねえよ」


茶髪でサイドテールを揺らしながら白い制服のスカートの丈がくるぶしくらいあり、ひと昔前のヤンキーみたいな女子生徒が話しかけてきた。後ろにはあの腐女子疑惑女子生徒も隠れている。


「えっ...いじめ..?」


それって僕のこと?勘違いはやめてほしい。


「そ、そうだぞ。あんな風に女性に逃げられるということは余程の事を彼女にしたのだろう」


まだいたのかよピン挙手委員長。

ややこしくなるからどっかいってくれ。


「いじめてないよ。ね?」


僕は、ヤンキー女子の後ろに隠れている腐女子疑惑女子生徒に声をかけた。

女子生徒がうんうんと頷くと、


「こいつに言わされてんじゃねえか?見た感じこいつ、柄悪そうじゃねえか目つきも悪りぃしよ」


ヤンキー女子、お前に言われたくない。

僕は黒髪だし、口もそんなに悪くない。

寝起きの時だけだよ口が悪いのは。


「そ、そそそんな事ないよ。そこが攻めにする決めてだったりもしたんだけどね?私ほら、強気のキャラには自然と攻めに行ってほしいタイプだからさ。いや逆も考えたんだけどね。亀が受けっていう、でも、堅が戸惑いながら亀の攻めを受けるっていうシチュに一番萌えてるからどうしても考えられなくて、それでね腐腐腐...」


あぁ、もう完全に腐女子ですこの人。

丸眼鏡をかちゃりと上げて興奮気味に話し出す腐女子疑惑女子生徒。

ヤンキー女子とこの人全く違うタイプだよなぁ。


「はぁあ、また始まったよ。まぁこいつに何かされたらいうんだぞ。あたしがぶっ飛ばしてやるからな。自分の選んだブラジャーを女子に着せようとするような奴だからな」


それ完全に毒舌モンスターに騙されてるから。毒されてるから。

ヤンキー女子は何の天才なんだ?

手元にあった紙に目を通すがそれらしい天才名が見当たらない。

むしろこいつが人に嫌われる天才なんじゃないのか?

でも、腐女子生徒とは仲良いっぽいからな。何の天才だろう。


腐女子生徒のようなわかりやすい天才もいれば、ヤンキー女子みたいにわかりにくい天才もいるのだ。


「あんだよ人の顔ジロジロ見やがって変態野郎が」


びくっと向こう側にいる雅ヶ坂が反応したのがちょっと面白かった。


「いや、見てないよ」


「あぁ?見てただろコラァ嘘ついてんじゃねえよ」


ガン飛ばしてくるガン飛ばしてくるやめて。


「下品な女と、変態な男、お似合いの二人じゃない」


隣の席から唐突に毒が飛んできた。


「は?」


真顔になったヤンキー女子が毒舌モンスターを振り返る。

眼鏡を外してぎらんとヤンキー女子を見た毒舌モンスターの方へ、ヤンキー女子はドスドス歩き出し、顔をギリギリまで近づけた。


「今なんつったよお前。ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえぞ」


「こ、こら、け、けんかはやめるんだ!」


女子の喧嘩を止めるのが怖いのかピン挙手野郎は女の子みたいに左手は胸に右手は弱々しく指差した。

なんだなんだ?とクラスの人達も僕達の方をむき出した。

勘弁してくれ僕は目立ちたくないんだ。


「やめようよ。乙女ちゃん」


腐女子生徒が、ヤンキー女子の肩を掴む。


「や、ダメだよ。よもぎ、こいつとお似合いって言われたのが気に入らねえんだよ」


いやそこぉ?

そこじゃないよね。下品な女の方だよね。違うのそっちなのすごく今傷ついたよ唐突にやめて。心の準備できてないから。


「まぁまぁまぁ、仲良くしようよ。クラスメイトなんだからさ」


そこで、にっこり笑いながら入学式の日、バスで僕に挨拶をしてくれたイケメンが仲裁に入った。


「何だよ委員長」


ヤンキー女子の表情が少し和らいだ。

彼の笑顔のおかげだろうか。


「ほら、クラスメイトも心配しているよ?花柔木(はなやわぎ)さん、初城さん、喧嘩はよそう?」



誰。花柔木って。

もしかしてあのヤンキー...さっきの腐女子生徒の言葉と合わせると、名前が花柔木乙女(はなやわぎおとめ)になるんだけど気のせいですよね。可愛いすぎやしませんかね。


「別に喧嘩なんてしてないわ。こんな低z」


何とイケメン委員長は、あの毒舌モンスターの言葉を遮った。


「豆種さんも、止めようとしてくれてありがとうね」


イケメン委員長が、腐女子生徒を見た。

彼女も、さっきヤンキー女子が言っていた名前と合わせると、彼女の名前は豆種よもぎ、となるわけか。


「さっ、休み時間もそろそろ終わるし、クラス皆で仲良く過ごそうよ。喧嘩は良くないよさっ!席につこうか」


イケメン委員長がパンパンと手をたたいて治った。

すごい。丸く治ってしまった。

ピン挙手委員長の出番なし!


そもそも、なんでこんな話になったんだっけ?

そうだ、僕が勉強を全くしていなかったからか。


僕は実は勉強をしている。

目つきが悪いのもそのせいだ。

何しろ帰ってから一睡もせず勉強に明け暮れているからだ。






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