甘くとける

「甘い」

 吐息の合間に怜之さとしが言った。由美の唇も吐息も、チョコレートのように甘くて、それから少し苦い。

「ココアを飲んだの」

 由美が応える。

「今日はシャンパンは飲んでないんだ?」

 笑い混じりに怜之が囁く。甘い空気が絡まって唇がとける。

「可愛かったのに」

 去年の由美の我が儘を思い出して怜之がくすりと笑う。

「意地悪ね」

 膨らんだ由美の頬を、宥めるように怜之の手のひらが包む。言葉とは裏腹に、由美の腕は怜之の首筋に絡んで引き寄せる。

「今年はあなたが飲んだのね」

 怜之の吐息は甘いのに、舌先にはぴりっとした辛味を感じた。

「景気付けに」

 怜之が笑う。少し困ったように。

素面しらふでしたいことをする度胸がなかった」

 由美がくすくすと笑う。つま先立って、腕に力を込める。

「意気地無しね」

「そうだよ」

 知ってるだろう? と怜之が笑う。

「ご飯は? 食べたの?」

「まだ」

「用意するわ」

「うん」


「ねえ」

「うん」

「離してくれないと用意出来ないわ」

「うん」

 くすくすと、吐息が混じる。

「ねえったら」

 くすくす。

「ごめん」

 由美の抗議も溜め息も、怜之に絡め取られてとける。

「もうちょっとだけ」

 更に引き寄せられて呼吸を奪われても、由美に異存なんて少しもなかった。

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宿り木の下でキスを 早瀬翠風 @hayase-sui

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