あなたがいないクリスマス

二度目のクリスマス

 イブの夜にはお店は貸切りになる。

 招待するのは、家族と。それから常連のお客様。特別な趣向はない。テーブルの配置をちょっぴり変えて、ホールの真ん中にツリーを飾って。カウンターにお料理を並べて。

 併設している古書店は今日はお休み。古書店に続く二階への階段はパーテーションで仕切って、上がり口には宿り木を飾る。


 宿り木を飾り付けながら由美はふふ、と笑みを溢した。去年のクリスマス、由美はこの宿り木の下で酔っぱらって醜態を晒した。今考えても顔から火が出そうだけれど、最高に幸せなイブだった。

「うん。オッケー」

 飾り付けた宿り木を満足げに眺めて由美はホールに戻った。店の中はがらんとしている。今夜の仕込みのために昼間の営業はお休みにしたのだ。賑やかな通りの喧騒から切り取られたようにしんとした店内。テーブルやツリーの配置は夕べの内に彼に手伝ってもらって設えてある。


 彼、と呼ぶのは今でもちょっと恥ずかしい。実はまだ、家族の誰にも伝えていない。会うのも専らこのお店で、外で会ったことは数えるほどしかない。お店を閉めてから自宅まで送ってもらう数十分が二人のデートだ。

 なんだか中学生に戻ったみたい、と由美は思う。物足りないその「お付き合い」が、意外に心地好いことを不思議に思う。

 気がついたら私の心のなかに居て、いつの間にか空気みたいに当たり前に傍らに在って。そして空気みたいに、なくてはならないひと。


 由美はスマートフォンの画面に指を滑らせて先程届いたメッセージを表示させた。


 残業になった

 遅くなるけど、必ず行くから

 ごめん          


 この一年で変わったこと。

 由美はそっと文字をなぞった。


 本当にお人好し。きっと、他の誰かの分も仕事を背負ったのだ。今日はイブだから。


 この一年で、敬語が消えた。

 距離はぐっと縮まった。

 けれど由美はもっとと求める。


 だって今日はイブだもの。

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