お人好し

 古書店なんてどこにも無いよ。



 通り過ぎかけて目に入った赤い色。洒落たカフェの前にまあるいポストを見つけた。半信半疑で中に入る。カランと響く鈴の音に迎えられると、心地好いクラシックとコーヒーの香りに包まれた。



 やっぱり間違えた。と思った瞬間、君が駆け寄ってきた。嬉しそうに笑って僕の手を引く。




 飲み物を頼んでくれたら、好きな本を読んでいいのよ。


 二階は古書店なの。本を一冊買ったら、コーヒー一杯サービスよ。


 ケーキがとっても美味しいの。彼のお姉さんの手作りなのよ。


 ねえ、何を飲む?




 窓際の席に僕を座らせて、ちゃっかり向かいに座る君。仕事はどうするつもりなの?


 背の高い格子窓から梅雨明け前のやわらかい光が差し込んでくる。君が眩しいのは光の加減だと信じたい。僕はコーヒーを頼んで席を立った。


 店奥の階段下の一角にアンティーク調の本棚が作り付けられている。子供向けの絵本から、ベストセラー小説。純文学。趣味の本。ちょっと難しそうな学術書。その中に懐かしい本を見つけた。今の気分にぴったりの。



 席に戻るとコーヒーとケーキが運ばれていた。




 頼んでないよ?



 うふふ。お姉さんからのサービス。




 うふふ、って。マカダミアナッツのロールケーキだよね、これ。今はあんまり見たくなかったな。マカダミアナッツ。




 転校生?




 僕の手元を見て君が言った。



 そうだよ。ハチャメチャな転校生の女の子にお人好しの主人公が振り回される話だよ。ほら。僕にぴったりだろう?


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