五月雨に香る

失恋

 年の離れた従妹はにこりと笑って僕の前に薄い箱を置いた。

 マカダミアナッツチョコレート。

 新婚旅行の定番のハワイ土産。

 目の前には幸せオーラ全開の君。


 こんなに完膚無きまでに失恋を突き付けるなんて、君は残酷な女の子だ。


 いや。その言い方は正しくないな。失恋はとっくに突き付けられている。君の結婚式の日に。君への恋心を自覚したあの瞬間に。


 恋の自覚と失恋をいっぺんに味わうなんて、僕は間抜けな男だ。


 何も知らない君が嬉しそうに土産話をしている。僕はにこにこ笑ってそれを聞いている。間抜けなうえに滑稽だ。だけど、君を喜ばせるのは子供の頃から得意なんだ。


 旦那さんの家族がやっている古書店でアルバイトを始めたから見に来てくれと君が言う。まあるいポストが目印だからすぐに分かるわって。


 嫌だよ。これ以上苛めないでくれよ。


 そう思うけれど言えない。僕は君にノーと言ったことがない。

 だから返事はもちろんイエスだよ。



 きみの頼みだからね。

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