White 由美

 怜之さとしは本を閉じて暗がりを見つめた。

 これまでだって、全く意識していなかった訳ではない。何と言っても由美は美人だし、怜之にだけ出される菓子を意識するなという方が無理だ。それでも、怜之は過度な期待などしなかった。自分は良くも悪くも印象に残らない特徴のない男だと自覚している。特別に邪険にされたことはないが、モテた例もない。美希だけは異常に懐いてくるが、あれは兄に対する親愛だから勘定に入らない。

 由美は、これまでも度々怜之を見つめていることがあった。その視線に意味を持たせようとする願望と、そんな無謀なことは出来ないという理性の狭間で怜之の心は揺れていた。


「イカロスはどうして太陽を目指したのかしら?」


 由美が訊いてきたとき、怜之は己ならそんなことはしないと答えた。その答えに嘘はない。そんな恐ろしいことは出来ないと思っていた。

 けれど、何故そうしたかは解る。

 その熱に触れたかった。もし、という万に一つの可能性に抗えなかった。


 今、怜之も囚われている。その幻想に。


 怜之がこの店に通う目的は、とっくの昔に従妹を喜ばせる為ではなくなっていたのだから。

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