Green3 クリスマス

「もうそろそろ失礼した方が好さそうだね」

 佐々木さんが僕のテーブルの前に立って苦笑した。促されて示された方を見ると、カウンターに突っ伏した由美さんが可愛らしい寝息を立てていた。

「帰ってカクヨムでもしよう。怜之さとしくんは残るよね? リア充爆発してー」

 笑いながら佐々木さんに言われて僕は全力で否定した。リア充って何ですか。心当たりが全くないです! まあ、残りますけど。


 何やら勘違いしている佐々木さんを見送って、扉に施錠する。カウンターで眠る由美さんに声を掛け肩をそっと揺すると、彼女は体を起こして僕を見た。だけどまだ夢のなかにいるようで、微妙に焦点が合っていない。

「怜之さん」

 名を呼ばれて、僕は、はいと返事をした。その僕の手を由美さんががっと握る。そのままぐいぐい引っ張られて、僕はされるがままについて行った。


「ちゅーして」

 宿り木の下まで連れて行かれ、脈絡もなくそう迫られて僕は絶句する。そんな僕にびっくりするくらい可愛らしい顔で由美さんは微笑んだ。

「宿り木の下でキスをせがまれたら、拒んじゃいけないのよ」

 悪戯っぽく瞳を輝かせて由美さんが僕を見上げる。僕が驚きに目を見開くのを見てくすくす笑う。

「酔ってますね」

 努めて平静を装って僕は言った。

「明日の朝になったら後悔するようなこと、しちゃ駄目ですよ」

 僕の言葉に由美さんの笑顔がすっと消えた。

「しないわ」

 掴んでいた僕の手を解き、腕を伸ばして縋りついてくる。

「しないから、キスして」


 自慢じゃないが、僕は冴えない。だからもちろん、こんな風に迫られたことなんて無い。いったい何の罠だろうかと思ってしまう。

「酔っぱらいの言うことなんて聞きません」

 素っ気なく言うと由美さんがぷうっと膨れた。

「酔ってないもん」

 もん、って。普段の彼女からは想像もつかない。

「ねえ、ちゅうー」

「だから、しませんって」

 僕が引き剥がそうとすると由美さんは益々ぎゅうっとしがみついてきた。シャンパンの甘い香りと、森林の水辺のような爽やかな由美さんの香りが僕の鼻腔を擽る。

「ちゅー」

「しつこい」

「けちー」

「ケチで結構」

 くすくすと、由美さんが笑う。僕にしがみついたまま。

「いい加減離れてください」

「やー」

 結局、これまた可愛らしい寝息を立て始めるまで、由美さんは僕にしがみついて離れなかった。

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