Red3 クリスマス

 イブの夜、カフェはクリスマス仕様になった。カウンターに料理を並べたビュッフェスタイルで、初めに会費を払えばあとは時間を気にせず、食べるもよし、飲むもよし。いつものようにゆったり読書に耽るもよし。パーティーという程ではないけれど、少し特別な夜だった。

 十一月の終わりから飾っていたクリスマスツリーを店の真ん中に移動して、テーブルの数は少し減らしている。今日のゲストは家族と常連客だけだ。いつもはお客様同士で言葉を交わすことはあまりないけれど、今夜はカウンターで飲み物や料理を選びながら会話も弾む。ちなみに二階の古書店は開いていない。階段の半ばにパーテーションが置かれ、行き止まりになっている。階段の上り口には宿り木を飾ってあった。


 二十時を回った頃からぽつぽつとお客様が帰り始め、二十二時に両親が、その少し後に弟夫婦が店を出た。残っているのは席に陣取って本に没頭している数人だけだから、ちょっとゆっくりしても大丈夫だろう。

 私は残った料理を小さめのお皿に盛り直し、カウンターと流しを片付けて細長いグラスにシャンパンを注いだ。淡いピンク色の液体のなかにあぶくが無数に散ってまるで星空みたいだ。くいっと喉に流し込んでから窓の外を眺めた。行き交う人の疎らになった通りの向こうでイルミネーションが輝いている。店内には軽やかなクリスマスソング。理想には程遠いけれど、好きなひととイブの夜を迎えている。カウンター席からは殆んど見えないソファ席。今日は何を読んでいるんだろうか。

 ナッツのお皿を引き寄せて、ポリポリと齧りながらグラスを傾けた。手酌では色気もないけれど、口当たりが好いので思った以上に進んだ。頬が火照って瞼がとろんと落ちてくる。だけど体が熱を帯びた分、冷たくはじけるシャンパンは益々気持ちが好かった。


 常連の村上さんが、好い夜を、と言って帰って行った。あと何人残っているんだっけ。


 次に誰かが席を立ってドアベルが軽やかに鳴る頃には、私の意識はふわふわと頼りなく揺れていた。

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