Red1 宿り木の下で


 宿り木の下でキスをせがまれたら拒んじゃいけないのよ――



 いつも私には無関心なそのひとが、驚きに目を見開き、困惑に眉を顰める。

 それは私の望んだ反応ではなかったけれど、それでも好い気がした。だって、初めて、私をまっすぐに見つめてくれたから。




   ❄❄❄




 六月に弟が結婚した。

 お相手は美希ちゃんという可愛らしい女の子で、結婚前から頻繁に家にも遊びに来ていたので顔見知りだった。人懐こくて明るくて、とてもいい子なのだけれど、ひとつだけ難があった。

 とにかく「お兄ちゃん」が大好きなのだ。普段は偉そうな弟が、お兄ちゃんには勝てない、と涙ぐむほどに。だから、一体どんなに素敵な王子様なのだろうと思っていた。


 だけど披露宴の会場で私はがっかりした。

「お兄ちゃん」は、普通の。人が好くて清潔感があるだけの、普通の男の子だった。


 美希ちゃんのことは本当に可愛がっているようで、彼女を見つめる瞳はとても優しい。それはちょっと羨ましいな、と思った。包み込むような優しい空気がここから見ていても分かる。これは弟が敵わない訳だ。掛けてきた愛情の年季が違う。弟が美希ちゃんを得ることが出来たのは、愛情の種類が違うからだ。もし、「お兄ちゃん」からそういう愛情を向けられたら、美希ちゃんはどうするのだろうか。


 そのとき、お兄ちゃんの優し気な顔が僅かに顰められた。一瞬目を見開き、瞳が揺らぐ。


 その表情はほんの一瞬で消えてしまったけれど、分かってしまった。

 手の届かないものに焦がれるような。けれども求める前から諦めるような。


 きっとお兄ちゃんは、美希ちゃんに想いを告げたりはしないだろう。届きも消えもしない想いは何処へ行くのだろう。

 胸がきゅっと痛んだ。

 甚だ不本意だが、私はきっと恋に落ちた。

 私は昔から、弱っているものにとても弱い。

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