早朝
まだ朝靄のかかる時間に、僕はランニングをしている。何かの為にしているという訳でもないのだが、言ってしまえば趣味の様なものだ。
今日も、町が動き出すには早い時間。朝特有の冷たい空気が、肺を浄化してくれている。この感覚が堪らなく好きで、僕はこの時間に走っているのだ。
耳にはイヤホン。好きなアーティストのアップテンポな曲を、浸れる位の音量で流す。すると、次第に口から漏れ出す鼻歌のような音痴なメロディー。それは、徐々に歌詞が付けられ、脳内で響く曲と一致する。けれど、僕の力量では鳩の鳴き声の方がよっぽど耳に心地良いだろう。
「いま〜〜とべる〜とり〜の〜」
すると、曲がり角から現れた柴犬を散歩させる若い女性。僕よりちょっと年上か、同い年くらい。僕は咄嗟に口を閉じると、出来るだけ何も無かった顔をする。けれど、その人は口に手を当て、目を細めながらこう言ったのだ。
「おはようございます」
一瞬にして、冷えきった肺が熱くなり、全身から汗が吹き出した。
「お、おはようございます・・・」
あぁ、今すぐに走って逃げたい。
そう思ったのにも関わらず、僕はペースを落としていた。
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