第2章 千夜祭夜②
帰りたい。
「壮太。こんな可愛い子二人と同じ学部なんて羨ましいな」
「そうそう、うちの学部なんて女子少なくてさ」
茶髪男子A、眼鏡男子Bが私たちを褒めてくれているらしい。ありがたいが、もう名前すら覚えていない。
合コン。
一つのテーブルに片方の列は男子が、もう片方の列は女性たちが座っている。私が真ん中に座ることになり、左隣に増川さん、右隣の奥の席に凪沙。男子は奥から壮太、茶髪男子A、眼鏡男子Bの順番だ。私が真ん中なので積極的に盛り上げなくてはいけない場所のはずなのだが、ひたすら相槌を打つだけのマシーンと化している。
合コンとは「合同コンパ」の略で、本来は二つ以上のグループが合同でするコンパを意味するが、多くは男性と女性のグループが交流を持つ会のことをさす、らしい。
交流会。場違いすぎる。
着いた瞬間、帰ろうとした。けど壮太の「ミスコン」の言葉に、文化祭で逃亡し、迷惑をかけたことを思い出し、申し訳なさに負け、逃亡を諦めた。
そもそもだ。
私には仮ではあるが、彼女がいる。
彼女持ちなのに合コンってこれ浮気じゃない?と思うが、隣にその彼女である凪沙がいるのでセーフだ。いや、合コンに彼女同伴ってどうなの。
けれども、私付き合っている人がいるので帰ります!とは言えない。彼氏なら許されるかもしれないが、「彼女」なのだ、女の私が「彼女」。
説明するわけにはいかず、ただ愛想笑いだけで「時間よ早く過ぎてくれ!」と祈っている。
幸いにも、私達二人はだんまりであるが、もう一人の女の子の増川さんが積極的に喋り、話を繋いでくれるので場の雰囲気は和やかである。
「ねえねえ、榎田さんは壮太と同じ高校だったんだよね?前からこいつはこんな風だったの?」
こんな風とはチャラい感じだろうか。話しかけられたらさすがに返答しなくては失礼だ。
「いや、全然。物静かな感じだった」
「えー考えられない」
「うわー、まじで」
「そうなんですね、壮太さん」
「はいはい、そうですよ。いわゆる大学デビューっていうのしちゃいましたよ」
壮太のお道化具合に笑いが起きる。いまいちノリがわからない。
「そういう希依だって、物静かな奴だったじゃん」
「ち、違わないけど」
「それがさ、今はさ」
今は何なんだ。私は大学デビューしたつもりはないぞ。
「いや、何でも」
「逆に気になる!」
「まあ変わったということだよ」
変わったのか。環境も状況も変わったが、性格はそんなに変わったつもりはない。が、周りからは変わったと思われているのか。
「三澄さんは高校の頃どうだったの?」
茶髪男子Aからの質問に、凪沙は困った顔をする。そういえば私も高校の頃の彼女のことを知らない。それどころか彼女の過去も、家族関係も何も知らない。
「ふ、ふつう」
「そ、そう普通なんだ」
質問した方を困らせるなんて、さすが私の彼女です。
ちょっと雰囲気がざわついたところを、すかさず増川さんが空気を変える。
「あれあれ皆さん、グラスが空ですね。ボタン押しますね」
初見はふわふわしている感じと思ったが、細かい所に気が利く子だ。サラダがきた時も真っ先に取り分けていたし、女子力高い。いや、私が低いだけ?
店員さんが来て、皆口々に注文していく。
「ビール」
「カシオレ」
「二杯目からカシオレかよ。早いな」
私はメニューと睨めっこするが、なかなか決められない。お酒は飲まないと決めているので選択肢は少ないのだが、選択肢が少ないほど逆に悩むっていうものだ。
「お二人は何にします?」
答えを出さない私たちに増川さんが催促する。もうさっきと同じでいいか。
「私はコーラで。凪沙は?」
「ウーロン茶」
「わかりました。店員さん、コーラとウーロンでお願いします」
増川さんが代弁し、注文は無事完了。居酒屋とか初めて来るので、メニューを見るのも新鮮で迷ってしまう。なお、ファミレスのドリングバーの目の前でも悩む模様。
腕時計をちらりと見る。まだ30分しか経っていない。
2時間制と聞いているので、あと1時間30分はある。
まだまだ長い。果たして私と凪沙は無事ダンジョンから抜け出すことができるのだろうか。
結果的に言えば、無事では済まなかった。
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