第5章 最低で最悪の答え③

 ご飯も食べ終わり、一通り構内を回ることになった。

 実行委員会だと屋台ばかり気にしてしまうが、屋内でも様々な企画が目白押しだった。

 鉄道研究会では模型を展示していた。部屋中いっぱいレールを張りめぐらせ、列車が走っている様子はなかなかに壮観だった。素晴らしい情熱を感じたが、解説はさっぱりわからなかった、ごめん、鉄子にはなれない。

 漫画研究会では似顔絵を描いてもらうことになった。三澄さんは漫研の女の子に描いてもらったのだが、目がとても大きく、凄くキラキラしたお嬢様がそこには描かれていた。一方、私はやたらイケメンに描かれていた。女の子なんだけどな、へこむ。

 ゲーム同好会では、落ちゲーで三澄さんと対戦した。ゲームなら負けないぜ!と意気込んでいたのだが、彼女はめちゃくちゃ強く、全敗した。さらに「三澄さん強いね」と励まされるものだから、私のプライドは粉々だった。

 ステージでは、ダンスサークルの華麗な踊りに圧倒され、アカペラサークルの歌声に酔いしれた。


「どのサークルも凄い」


 アカペラサークルの歌が終わった後に、三澄さんがそう感想を述べた。

 全くもって同意見だ。このイベントのために、皆必死になって頑張っている。

 そんな彼らの力になれたんだな、と誇らしい気持ちになる。


 次のステージイベントが始まるので、人が捌けていく。私たちもその流れにのる。その流れの外に、困り顔の壮太をまた発見した。


「あれ、希依」


 嫌な予感がしたので聞こえなかったフリをする。


「おい、希依だろ、無視すんなよ」


 くそ、スルーできなかったか。


「私、希依違う。エノデン、私エノデン、観光地まで案内するよ」

「おい、馬鹿なフリして逃げようとするなよ」


 こういう時昔なじみの友達というのは面倒だ。


「頼みが、あるんだ」

「嫌です」

「せめて話だけでも」

「それは聞いたら引き返せないフラグでしょ」

「ミス庄西コンテストがあるんだけど」

「話を始めるなああああ」


 私の大声に三澄さんがびくりとする。ごめん、あなたを驚かすつもりは全くないんだ、うん。


「焼き鳥丼サービスしたよね?」


 痛いところを突く。

 こういうことがあると思って、奢られたくなかったんだよね。

 私の心情も気にせず、壮太は話を続ける。


「ミス庄西に出る女の子2人が急に不参加になったんだよ」

「ふむ、それは仕方ないね。残りのメンバーで頑張ってもらうしかないね」

「それが、全部で3人エントリーなんだ。そのうち2人いない。言っていることわかるね?」


 3人のうち、2人いない。つまり、一人だけのミスコン。優勝者はすでに決定。すさまじき出来レース。


「これはひどい」

「でしょ、ミスコンの意味がない」

「そもそも何で3人なのよ」

「それは皆、引っ込み思案だからさ。こんなコンテストに出るのはよっぽどの自信家で、目立ちたがり屋だ」


 ひどい言い様だ。


「だから、二人出て」

「嫌です」

「どうしても?」

「うん」


 壮太が大きくため息をつく。


「だよねー。俺だってこんな企画乗り気じゃなかったんだ。自分でエントリーするミスコンなんて嫌だね。出るのはテニサーの女ばかり。ラウンジワンの奴らもドタキャンしやがって」

「ラウンジワンの女?」

「そうそう。奴ら屋台が出店禁止になったで、内部で大喧嘩してほとんどが祭に参加せず、帰ったんだ」


 あれあれ、もしかしてそれって私のせい?

 ルールを破ったのは彼らだ。悪いのは彼らだ。でも、こう違う企画にまで影響が出てしまうと責任を感じてしまう。

 う、うーん。 


「わかった」


 えっと壮太が驚いた顔をする。


「出るよ、ミスコン」

「えっ、まじでどうして」

「焼き鳥丼おごってもらったしね」


 あんな500円で参加するなんて私も安くない。

 罪滅ぼしだ。ルールを破ったとはいえ、彼ら、彼女らの楽しみを壊してしまった。悪いことは悪い。でも楽しみたい気持ちは悪ではない。

 …なんて、人が良すぎる考えだろうか。


「というわけで一緒に出よう、三澄さん」


 三澄さんが全力で首を横に振る。


「大丈夫、私も一緒だから」

「無理、無理です」

「ね?」

「む、無理」

「帽子の着用を許可するから」

「えっ、うん、いや、でも」

「よし、壮太、二人エントリーで宜しく」

「無理だから、三澄さん!」


 こうなればやけだ。こんな黒歴史もきっと後になったらいい思い出になる・・・よね?

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