第57話 待ち構えていた悪夢

「……くしゅん」

 くしゃみをひとつして、ミカは目を覚ました。

 彼女の周囲にあるのは、何処かの部屋と思わしき雑然とした印象を受ける光景だ。

 ひとつしかない窓が外の明かりを取り込んで室内を照らしている。壁には使い古しのクローゼットや鏡台といった家具が並んでおり、床には安っぽい花柄の模様の絨毯が敷かれ、その上には小さなベッドと小さなテーブルが並べて置かれている。ミカはそのベッドの上に寝かされていた。

 室内に漂う空気は随分と埃っぽい。どうやら、あまりまめに掃除はされていないようだ。

 此処は何処なんだろう。

 彼女が辺りをゆっくりと見回すと、

「ようやく起きたか、子猫ちゃん」

 テーブルの傍に置かれていた簡素な椅子。それに腰掛けていた男が、立ち上がりながら言った。

 黒い毛並みの狼の頭。鋭い金の目が、ミカを舐めるように見つめている。

「待ちくたびれちまったぜ。もう少しで無理矢理起こすところだった」

「……此処、何処……」

 男が近付いてくる。反射的に後退りしながら、ミカは訪ねた。

 男はベッドの上に上がってきた。

 鋭い爪が伸びた獣のような手。それが、ミカの足先に触れる。

「此処か? 此処は俺たちの根城だ。街外れにある、なかなかいい環境の場所さ」

 脹脛。太腿。男の手が、無遠慮にミカの体を撫で回してくる。

 ミカは体に触れられる嫌悪感から身を縮めた。

 しかし、男の手はミカに触れるのをやめない。

「先日は、俺の手下たちが世話になったな。その礼をさせてもらおうと思って、お前には此処に来てもらった」

 男の手がミカの胸元に伸びる。

 ぐっ、とシャツが掴まれて、引っ張られ、力任せに引きちぎられた。

「!?」

 下着が露わになり、ミカは咄嗟に腕を抱き寄せて胸を隠した。

 だがその手は、男の手に掴まれて広げられてしまう。

 男はミカの上に覆い被さりながら、笑った。

「せいぜい楽しませてもらうぜ? お前も女なら、いい声で啼いてくれるよな?」

「!……嫌……」

 ミカは力一杯抵抗した。

 しかし、相手は大きな体をした大人の男。小さな体の少女の力ではびくともしない。

 男の片手がミカの下半身に伸びる。

 ズボンの留め具が外されて、下ろされる。

 そのまま両足を割られ、圧し掛かられ、ミカは声を上げた。

「嫌……嫌! アレク!」

「喚きたいだけ喚け。その方が火が点くってもんだ」

 男は舌なめずりをしながら、ミカのブラジャーの肩紐に指を掛けた。

 ミカの目に涙が浮かんだ。

「嫌ぁぁぁぁぁ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る