第157話 絶対不敗の決闘者 -24
◆
フランシスカはずっと見ていた。
否、ずっと見ているしか出来なかった。
自分が立てた策が通じず、その絶望感に押しつぶされていた。
ただ立っていて見ていただけだった。
遥と拓斗が、エーデルに向かって行くことを。
見届けた。
一歩も引かなかったことを。
一撃を与えたことを。
――それぞれの胸から鮮血が飛び散った所も。
「あっ!」
言葉にならない声を上げながら、フランシスカは遥の下へと飛び寄った。
パッと見た所で服など斬り裂かれていないので大して傷ついていないように見えるが、それでも服の隙間から血が飛び出るほどの大ダメージを負っているのだ。
――それどころではない。
エーデルの攻撃は反射だ。
彼を絶命させるほどの攻撃を繰り出したのだ。
そんな攻撃を全部受けたのであれば、彼女の命も――
「……うっ……」
「え……?」
フランシスカは自分の耳を疑った。
遥が、確かにうめき声を上げたのだ。
「え、でも……え……?」
フランシスカは大いに困惑して、すぐ近くで大の字で倒れているエーデルをもう一度見る。目を見て判るが絶命している。
なのに遥は、その大きな胸が上下している。
――生きている。
「どういうこと……? だってあいつの能力で……」
「……とは……」
「え……?」
遥が小声で何か言った。
口元に耳を寄せる。
「……拓斗は……?」
「拓斗?」
顔を振って確認すると、拓斗は少しだけ離れた場所に倒れていた。
「あっちよ! 連れて行ってあげる!」
フランシスカは遥を抱えて拓斗の近くまで飛んでいく。
見れば、顔面が腫れ上がっているという違いはあるものの、拓斗も遥と同様に胸を上下させていた。
彼の横に遥の身体を優しく置きながら、フランシスカは疑問符を頭に浮かべる。
何故拓斗も傷を負っているのか――と。
だけど今はそんなことはどうでもいい。
「ねえ拓斗……生きている……?」
「……ああ……何とかね……」
二人は息がある。
エーデルは息が無い。
つまり――あのエーデル・グラスパーに勝利した。
それだけが事実だ。
「良かった……成功したのね……」
ふう、と深く息を吐いて遥は優しい声音で隣の拓斗に告げる。
「ありがとう。私の痛みを半分持って行って――守ってくれて」
痛みを半分持って行った。
――それこそが彼らが生き残った理由であった
エーデルを倒すには相手を殺す気で掛からないと駄目だ。
しかしその攻撃を放てば自分も死ぬ。
だから無意識に躊躇してしまう。
だが遥は、拓斗との契約により、痛みを半分拓斗に分けることになっている。
つまり――100パーセントの力で攻撃しても自分へのダメージは半分の50パーセントになるのだ。
「……信じていたよ。100パーセント以上の力を出してくれるって」
拓斗は、はは、と笑い声を零す。
「だけどこれは……180パーセントくらいじゃないのかな……?」
「多分160パーセント……かな……?」
「じゃあ間を取って170……くらいでいいか……」
そんな他愛もない会話をした後。
二人はお互いに向けて拳を突き出し、
「でも、生きている」
「私達の勝ち、だね」
コツンと合わせた。
その瞬間、二人はゆっくりと目を閉じ、意識を手放したのであった。
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