第141話 絶対不敗の決闘者 -08
◆エーデル・グラスパー
(何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ!!)
彼は混乱の極みにいた。
身体を鎖によって自由を奪われ、海に突き落とされた。
相手の狙いは明白だ。
――窒息死、もしくは溺死。
いずれにしろ酸素を奪い、エーデルの命を奪うつもりだ。
それは分かっている。
だが、何故そんな状況になったのか、エーデルには理解出来ていなかった。
読みが甘い。
――それは分かっている。
だけどあまりにも読みが狂い過ぎた。
一体何が原因で――
「!!!」
水中故に実際に声は発していないが、彼は絶叫しそうになることを堪えた。
激痛だった。
腹部にある傷に海水という塩水が染みこんだからだった。
そしてそれが、彼が読みを狂わせた原因であった。
あの時、セバスチャンが決死の覚悟で付けた傷。
決して浅い傷ではなかった。
致命傷になり得なかった。
しかしながら結果的に――これが致命傷になり得たのだ。
(力が……入らねえ……っ!?)
海に赤いものが流れ出る。
腹部の傷が開いたのだ。
鎖を焦って引き千切ろうとした彼は腹部という箇所を痛めたことにより腹筋に力が入らなくなり、結果、ただ身体が沈んでいくのを感じるしかなかった。
怒りで身体が沸騰しそうな程熱くなる。
だけどどんどん冷えていく。
まるで無駄だと言うかのように。
そしていつの間にか、先程までエーデルを掴んでいた少年は、蒼髪の少女と共にどんどんとエーデルから距離を離していった。折角だから引きずり込んでやろう――などと思う前に手を離してしまっていたようだ。
ぐんぐんと距離が離れていく。
それはエーデルが沈むのが速いのか?
相手が命綱でも密かに握っていて急速に浮上しているのか?
……分からない。
だがエーデルはもがこうとして力が入らない自分の様子を考えていた。
酸素が無くなってきたからか、視界もぼんやりとしてきた。
(こんな最後になるとは思っていなかったな……)
命の危機。
風前の灯。
その事実に身体の奥底から寒気を感じる。
(これが死への恐怖か。いつ以来だろうな………………ああ、あの時か)
エーデルはうすぼんやりとした意識の中で、とあることを思いだしていた。
それは、とある戦場でのことであった。
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