絶対不敗の決闘者
第134話 絶対不敗の決闘者 -01
◆
「昨晩、フランシスカちゃんとセバスチャン君のコンビがやられたわ」
翌日。
朝早くに木藤家に来た遥の母、剣崎美哉は玄関先で、拓斗と遥に向かって真剣な表情でこう告げた。眠気まなこを擦りながら「また何かふざけたことを言われるのか」と話半分に訊こうとしていた2人は一期に目を覚ました。
「セバスチャンとフランシスカが……?」
「2人は無事なのですか!?」
「フランシスカちゃんの方は軽い切り傷だけね。でもセバスチャン君の方は重傷よ。腹部に深い刺し傷を負って、内臓もズタズタ。フランシスカちゃんが連れて来た時に早急に治療したけど未だに意識も戻っていないし予断は許さない状態だわ」
「『
「ええ」
拓斗は身を持って『
そんなことが即座に出来る治療技術を持ってしても、セバスチャンは意識不明で危険な息を彷徨っているということである。
そのような状態になっていることに、拓斗は信じられなかった。
「あのセバスチャンがそんな重傷を負うとは思えないのですが……一体何があったのですか?」
「お母さん、さっき刺し傷って言っていたよね? ということは『
遥の言葉に美哉は首を縦に振る。
「半分正解で半分外れよ。セバスチャン君に重傷を負わせたのは『トワイライト』。だけど相手は刀剣使いではないわ」
「だったらナイフ? でもそれも刀剣類に入るんじゃ……」
静かに首を横に振って、美哉が口を開いたその時、
「――エーデル・グラスパー」
玄関の扉が開くのと同時に高い声が聞こえて来た。
フランシスカだった。
「いいの? セバスチャン君の傍にいなくて」
「いいわよ。私が傍にいた所で何の役にも立たないわ。それよりも、あなた達に伝えなきゃいけないことがあるもの」
険しい表情で彼女はツカツカと歩み寄ってくると「知っているわよね? エーデル・グラスパーという名を?」と遥を指差す。
「エーデル・グラスパーって……まさか『絶対不敗の
「『絶対不敗の
「……『トワイライト』の中で有名な人の名前よ。英訳通り、『白夜』はこの男に勝ったことは一度もないと言われているわ。会ったら災害に遭遇したと思って諦めろと教えられたわ」
「そんなやつがいるのか……でも待てよ? そんな存在がいるのならば、そいつ一人で攻められたら終わりじゃないか」
「そうなのよ。だけどさっき言った通り、災害に遭遇したと思って、というように戦闘に出る回数がそこまで多くないとは聞いているわ。だからそんな異名を持ちながらも自分から戦闘には参加しない、消極的な人物だと思われていたけど……」
「実際は逆よ。戦闘を楽しんでいる様子に見えたわ」
フランシスカの眉間に皺が寄る。
「というよりも相手を選んで戦っている様子だった。私とセバスチャンもターゲットに入っていたわ。そして恐らく――あなたたちも入っているわ」
「僕達も……?」
驚き声を上げる拓斗を横目に、遥は疑問点を突きつける。
「ターゲットに入っているって、どうしてそう言えるのよ? まさかこの地域の『スピリ』だから入っているはず、ってことじゃないわよね?」
「ええ。あいつは言っていたのよ。『執事服の少年と金髪のお嬢ちゃんあとは――緑髪の女の子とこれと特徴がこれとない男の子』――ってね」
「……それのどこが私たちのことを示しているの?」
遥の疑問は最もだろう。彼女の髪色は蒼。到底緑とは言えない。日本語の古い言い方で緑色のことを「青」ということはあるが、青を「緑」とは言わないし、それに名前から察するに相手は外国人だ。そのような言い方があることを知っているとは思えないし、遠回しな表現として使う意味もない。
もっとも、拓斗が特徴がこれとないというのは正しいとは、拓斗自身は思っていたが。
「……そこは確かに私も不思議に思ったわ。だからこそ『恐らく』と言ったのよ。だけど、私達の一緒にターゲットにされる若い人物って言えば、あなた達しか考えられないもの」
「それはきっと、遥達のことで間違いないだろうね」
そこで美哉が彼女の意見を後押しするようなことを口にする。
「敵に対しての認識阻害――多分外見的な特徴を述べていることからも写真か何か出回っているのでしょうね。でも、それを見ても特徴的な所が違った形で認識されているのではないかと思うわ」
「そんなこと……というか何で私だけ?」
「遥だけじゃないわ。多分拓斗君もよ。というよりも――拓斗君がメインかもね」
「僕が?」
「君の盾の能力によってそうなっている可能性が高い、ってことよ」
拓斗の盾。
剣崎遥の盾。
それは物理的に守るだけではなく――こういった形でも彼女を『守っている』。
「……そんな訳ないでしょう」
だがそのようなことを遥が一蹴する。
そしてそれは拓斗も同意見だった。
「そうですよ。僕の『盾』がそんな所まで及ぶなんて考えられないですよ。僕自身、そんな自覚は全くないんですから」
「そうね。確証も根拠も何もない話だものね」
あっさりとそう口にして美哉は「だけどね」と続ける。
「フランシスカちゃんが言った通り、この地域にエーデル・グラスパーが現れたということは、先のがあなた達2人だという可能性は非常に高いわ」
だから――と彼女は言う。
「逃げなさい」
「戦って」
同じタイミング。
そこで全く反対の言葉が紡がれた。
前者は美哉。
後者は――
「お願いよ。戦って倒して」
フランシスカは顔をくしゃくしゃにしながらそう告げた。
「セバスチャンが命を懸けて相手を傷つけてくれたわ。相手もかなりのダメージを負っている。そんな中でターゲットとなっているあなた達の姿を見ればそのような状態でも絶対に戦わうと思うわ。今が絶好のチャンスよ。手負いの相手ならばあなたたちでも倒せる……あ……倒せ……えっと……だから……その……」
唐突に語勢を弱めていったフランシスカ。
その様子を見て、美哉が厳しい表情で訊ねる。
「……分かっているようね、フランシスカちゃん。自分がどれだけひどいことをお願いしようとしているかが」
「……」
「どういうことですか?」
拓斗にはそれがひどいことだとは思わなかった。
相手に深いダメージを負わせた。
故に今がチャンスなのでトドメを差してくれ。
至って普通のことに思える。
だが、美哉と同じように厳しい表情の遥が、その答えを口にした。
「エーデル・グラスパーは2つ、能力を持っていると言われているわ。1つは遠距離攻撃無効。もう1つは――与えたダメージがそのまま跳ね返ってくる」
「ダメージがそのまま……?」
「だからきっと――セバスチャンが相手に刀剣を突き刺したからこそ、同じ場所に重傷を負ったのよね」
セバスチャンの重傷の理由。
刺し傷。
相手は刀剣使いではない。
――刀剣を使ったセバスチャンの攻撃を反射したからこその傷だったのだ。
「もう分かったと思うけど、つまりフランシスカはさっき私達にこう言ったということなのよ。――『自分を犠牲にして相手を殺してくれ』って」
「っ、違っ! ……いいえ。その通りだわ」
観念した様に肩を落とすフランシスカ。
「私が言おうとしたのはそういうことになるわ。セバスチャンが作ったチャンスを無駄にしたくないと思ったのよ」
だけど――とフランシスカは頭を振る。
「ただあなた達に死ねと言いに来たわけでもないわ。あいつと対峙して、じっくりと考えて、見えてきたことがあるのよ」
「見えてきたこと?」
「ええ。だからお願いがあるわ」
フランシスカはそこで拓斗の前に立つと、彼の手を取って、こう言った。
「木藤拓斗さん。私と――パートナーを組んでください」
「……駄目」
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