第123話 勝てない -02

    ◆???



「……はい。はい。そうです。以上です。よろしくお願いいたします」


 眼鏡を掛けた男性が電話を切る。

 彼は『白夜』のサポーター。

『魂鬼』が出現した時に、その情報を本部に伝える役目を担っている、非戦闘員である。

 そんな彼は今、顔色が真っ青であった。その顔色までは当然、電話先までは伝わっていないだろう。

 いや――伝わってはいけないのだ。


「どうも。ご苦労様」


 ポンと肩を叩かれ、彼は跳ね上がり距離を取る。

 肩を叩いたこの人物。

 それこそが、彼の顔を青くさせている人物であった。


「エーデル・クラスパー……ッ!」


「おいおい。そんなに睨むなよ……ってのも無理な話だよな」


 エーデルはからからと笑い声を上げる。


「サンキューな。ちょっと強そうな『魂鬼』だって言えば強い奴らが出てくるだろうからな。弱い奴が出てきても意味ねえんだ。かといって俺の名を出せば逃げるやつもいるだろうしな」

「……っ」


 彼が言っていることがただの驕りではないことは知っていた。


 エーデル・グラスパー。

絶対不敗の決闘者Not Loser』。


 その異名通り、ただの1度も負けたことがない。

 つまり『白夜』側にとっては一度も勝ったことが無い相手だということだ。

 その強さは当然、『白夜』内でも知れ渡っていた。

 そしてサポーターの男は実感していた。

 格が違う。

 同じ人間ではないのかと錯覚を起こすくらいだった。

 目の前にいるだけで足が震える程の威圧感。

 だから逆らえなかった。

 ――例えどちらにしろ殺されると分かっていても、


「……っ!」


 彼は目を瞑った。

 もうこれで用済みだ。

 だから自分が殺されるのは明白だ。


 ――しかし。


「ってなことで。じゃあな」

「なっ!?」


 エーデルは何もせず、その場を去ろうと後ろを向いた。

 本当にこのまま解放する様子だ。


「あ、もう一度連絡して、実はエーデルさんが来ているんですよー、なんていうのだけはなしな。それやっちゃったらさっきの意味ないしな」


 絶対にするなよ! と念押しで指差しをして、彼は本当に立ち去って行った。


「……え?」


 全く眼中にないのか。

 いや、それでも普通は念押しだけで従うとは思えないだろう。

 ならば何故彼は去って行ったのか?


 理解が追いつかなくてその場に残されたサポーターの男は、ただただ呆然とすることしか出来なかった。

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