幕間

第121話 幕間

    ◆幕間



「……あんまり気が乗らねえな」


 とある暗い路地裏で、エーデル・グラスパーは不満そうにそう声を上げる。

 そこに近くにいた頭から真っ黒なローブを被った人物が「どうしたのですか、エーデル様?」と声を掛けると、彼は手に持ったモノをひらひらとさせる。


「それは……写真、ですか?」

「おう。見てみるか?」

「これは……」


 見せてきたのは4枚の写真。


 黒髪の冴えない男の子。

 蒼髪の女の子。

 執事服を着た整った顔の少年。

 金色の髪の幼い少女。


「それが今度の敵だってさ」


 全てを産みし者マザーから告げられた指令。

 それは厄介な敵であるその4人を殺すことであった。


「こんなに若い子達が……あれ? でも黒髪の子と蒼髪の子はハッキリと顔が見えないですね」

「そうなんだよ。それで人を特定しようだなんて無茶な話だよなあ。まあ青い髪の子なんてそうそうはいないだろうから、そっちで探すかあ」


 んー、と伸びを一つして、エーデルは唸る。


「しっかしテンション下がるよなあ」

「こんな子供達を相手にすることですか? 確かに未来ある若者を戦場に送り出すことについては私も思う所がありますが……」

「ああ、違うよ、違う」

「え?」


 呆けるローブの男に、エーデルはあっけらかんと答える。


「こいつらじゃ俺の相手にならん、ってことだよ。若すぎて経験が足りねえ。想像するに無謀に突貫してくるだけだな。まあ、そこを一歩引けるような器があればいいが、それを期待するのは酷だろうよ。一応、全てを産みし者マザーには、逃げるような奴には手を出さねえからな、って言っといたけど、それを選択するとは思えねえな。だからテンション下がるんだよ」


 判り切った結果にな――とエーデルは鼻で笑う。

 その回答に、ローブの男は心底震えあがった。

 若い人間相手だから良心が痛むのではなく、戦いを楽しめないからテンションが下がる。

 正に戦いの鬼だ。


「さて、と。そろそろ時間か?」


 ポン、とエーデルがローブの男の肩を叩く。


「は、はい!」

「何だよ、そんな緊張するなよ。……って、ああ、すまん。そりゃ緊張するよな」

「え?」

「ここから『魂鬼』を召喚するんだもんな。……


 優しい声音。

 恐ろしいと先程は思ったのに、こうやって気を遣う様子を見せてくるから混乱してくる。そもそも緊張している理由は口にしたことではなかったのだが、しかしながら言われて改めてローブの男は顔を強張らせる。


「……はい。我らの悲願の為ですから」

「ああ、そうだな。じゃあよろしくな」

「はい」

「あと、さっきの写真の奴も見つけたら教えてくれよな」

「はい。ですが執事の子と金色の髪の女の子と赤髪の子は判別できると思いますが、残る1人の男の子はもしかしたらむずかしいかもしれません」

「それは仕方ないさ。とにかくよろしくな」

「はい!」


 先よりも跳ねた声で、ローブの男は闇から姿を消していった。


「…………………………?」


 直後。

 エーデルは首を傾げた。

 違和を感じたのだ。

 何に違和を感じたのか。

 それは分からない。

 ――いや、違う。

 


「……ま、いっか」


 しかしながら彼は考えることを止めた。

 戦いの中では迷いは必要無い。

 真っ直ぐ前だけ見て、敵を倒す。

 それが彼の役目だ。


「さて、と。釣られてくれるといいがな」


 そう口にして、彼は闇から光の方へと歩を進めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る