第119話 すれ違い -06
◆鈴音
(うーん……どうしたものかしら……)
拓斗の母親である鈴音は、ほとほと困っていた。
息子と、家に預かっている親友の娘の間で、どうやら何かあったらしい。
親友の娘が声を掛けようとしているが、息子はそっけない態度を取っている。
それに耐えられなくなったのか、親友の娘は部屋に戻って行ってしまった。
顔を赤らめて涙目になりながら、だ。
(まさか過ちを犯したとか……なんてね)
そんなことは有り得ないと鈴音は確信していた。
(拓斗にそんなことをする度胸はないしね。それに――出来ないはずだしね)
出来ないはず。
そう考えてはいるものの、しかしながら「はず」と付けているように、不確かではある。
だから息子に直接聞くことにした。
「拓斗。何か遥ちゃんにやったの?」
「ん? 別に何もしていないけど」
「嘘おっしゃい。明らかにいつもと様子が違ったでしょう。拓斗も、遥ちゃんも」
そう指摘すると、拓斗は少しだけ考え込む様子を見せ、
「……遥は知らないけど、僕はただ考え事をしていただけだよ」
「考え事?」
「そう考え事だよ。それだけ。……僕もご馳走様」
拓斗はそう言って食器を片づけると、早々に自室へと戻って行った。
食卓に一人だけ残された鈴音は、
「……変ね」
拓斗の先の回答に疑問を持った。
もしただ考え事をしていただけならば、遥から話しかけられた時の反応はもっと柔らかなモノだっただろう。しかしながら拓斗は傍から見て冷たいと思われる態度を取っていた。
「これは……ケンカ、かしら?」
考え得るとしたらこの状態しかない。
察するに遥が拓斗を怒らせて、どうにか謝ろうと切り出した所に「怒っていないから」とけん制されてにっちもさっちも行かなくなってしまったようだ。
意外と根が深そうだ。
少なくとも親が口を出して解決しそうな話でもないし、具体的な話を拓斗はするつもりが無いからそもそもアドバイスのしようもない。
今の所、当事者2人でなくては解決できないはいけないことだ。
「だけど、まずいわね……」
精神状態は2人共よくないことは確かだ。
このような状態で敵が出てきたら、いつもの調子では戦えない。
下手したら命に関わることになってしまうことにもなってしまうかもしれない。
ならば――
「――もしもし」
鈴音は、とある人物に電話を掛けた。
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