第107話 修行・修練・習得 -07
「……」
「……」
「……」
「……」
嫌な沈黙が場を支配する。空間を切りとって静かだから尚更だった。
セバスチャンが、にこり、と満面の笑みを浮かべて告げる。
「お嬢様。空気を読んでください」
「え? 何で? これって私が悪いの!?」
「いやいや、先程お嬢様は『甘いやつらに――戦いとはこういうものだと教えてあげるのよ』と言っていたではないですか」
「言ったわよ」
「それは文字通り、戦いというモノを教える、ということを実践して見せるということですよね?」
「そうね」
「そして、教えてほしい、と彼らは言ってきました」
「そうね」
「……まさか『教えてあげるのは戦いの中だけ』とか言いませんよね?」
「え? ……それって何かおかしいの?」
目を丸くしているフランシスカ。
セバスチャンはニコニコとした笑みを崩さない。
「お嬢様。小学校の先生は、授業にてあなたに勉強を教えていますよね?」
「ええ。それが教師というモノですもの」
「当然、先生は授業の中で全て教えるつもりでやっていますよね?」
「ええ。それが教師というモノですもの」
「そこで私が『先生が授業で教えたことで全てですから、個別で勉強を教えません』と言ったらどうしますか?」
「……何でそういうこと言うの……?」
絶望して涙目になるフランシスカ。セバスチャンは一瞬だけ口元に手を当てて「……っ」と顔を逸らした。恐らくはフランシスカの無邪気なその表情に可愛さを感じてしまって破顔したのだろう。
危ない奴だ。
そんな危ない奴は2、3度を自分の頬を叩くと、再び満面の笑みを見せた。
「つまりはそういうことです。お嬢様は今、そう言ったのです」
「えっ……? ……………………言っていないわよ」
「言いました」
「いいえ言っていないわよ! おほほほほほほほっ!」
口元に手を当てて高笑いをするフランシスカ。その目は泳いでいることからも今口にしているのは明らかな虚言であり、幼い少女らしい脈絡も理屈も無い言い訳であった。
しかしながら、今なら押していけるはずだ。
「じゃあ教えてくれるのね?」
「勿論よ! 任せなさいな!」
親指を立てるフランシスカ。
遥も同じように立てて返す。
ほら上手くいったでしょ――と言わんばかりに笑みを浮かべて親指を立てるセバスチャン。
そこに遥のパートナーとして感謝の意を込めて親指を立てる拓斗。
親指を立てた4人がそこにいるという奇妙な状況の元で。
遥はフランシスカに『戦い方』を。
拓斗はセバスチャンに『守り方』を。
それぞれ教わることとなった。
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