修行・修練・習得

第101話 修行・修練・習得 -01

     ◆



「ほんっとーにもーしわけありませんっ!」


 舌っ足らずの言葉と共に、小さい頭がぺこりと下がり、後ろでまとめた長い髪も同時に跳ねた。小さな身体にその所作はとても可愛らしかった。当然、彼女は高校生ではない。

 彼女の名は七五三木しめぎはれ

 七五三木静の妹である。

 何故彼女がここにいるのか。

 それは勿論、彼女の横にいる金色の髪をした膨れっ面の少女が理由である。


「ほらっ! フランちゃんも謝ってっ!」

「何で私が……」

「勝手に高校に来てお騒がせしたんだからとーぜんでしょ! ほら謝って!」

「ふがっ! 頭を押さえるのは止めて!」

「ほんっとーにもーしわけありませんっ! はい!」

「……もーしわけありませんでしたー」

「違うでしょっ! フランちゃんは外国人なんだから、そーりー、でしょっ!」

「なにこの理不尽!」


 フランが陽に振り回されているのをクラスの皆はほっこりとした様子で見守っていた。

 そんな中で、その姉は誇らしげに顔を輝かせていた。


「ね? ね? うちの妹しっかりしているでしょう? 小学三年生とは思えないくらいに。あと可愛いでしょう?」

「何が、ね? なのかは知らないけど……でもどうして静の妹が迎えに来るのさ。普通は担任とかじゃないのか?」

「ウチの妹が優秀だからに決まっているじゃない」

「決まらねえよ。駄目だこの馬鹿姉」


 もしかすると小学校の担任が駄目なのかもしれないが、推察で人を貶めるのはやめておく拓斗であった。

 やめておいて、話の方向を逸らす。


「と、そんな感じで妹にでれでれな様子の静さんのこと、どう思いますか解説の大海さん」

「ええ、普段の落ち着いた様相とのギャップを感じて可愛いと思いますね……って、何言わせるんだよ!?」

「~~~~っ」


 やった。大海は馬鹿だから引っ掛かると思った。実際に拓斗でもギャップについて少し可愛らしいなと感じたから、大海もきっと思っているだろうとある種の確信があった。

 結果、静を赤面させることが出来た。

 妹の前で辱めてやったぜ。

 ――などという下種なことは考えておらず、かといって大海と静をいい感じにしようなどという邪な心を持っていた訳でもなく、ただ単に妹自慢をしてくる静に少しだけイラッとしたので止めたかっただけだった。少しだけ可愛かったけどちょっといらついた。この感情は何だろう? 恋ではないのは間違いないのだが。


「それじゃあ高校生の皆さんすみませんでしたっ! ほら、フランちゃんもっ!」

「……ソーリー」

「なんで英語なの? ここは日本だよ」

「これ私に対してのいじめよね!? 勝手に学校を抜けたから!? ごめんなさい! だからもう許して!」

「じゃあお姉ちゃん、じゃあねー」

「聞いてよ! ねえ……本当に聞こえていないの!? 待ってよ!」


 マイペースに事を進め完全に独壇場を築き上げながら陽は教室を去り、泣きべそを掻きながらフランシスカがその後を追って行った。


「ね? 私の妹可愛かったでしょ?」

「おい馬鹿姉また同じこと繰り返してやろうか」

「ね? 私のご主人様可愛かったでしょ?」

「おい馬鹿執事なに平然と僕達の会話に這入ってきているんだよ」


 澄ました顔でさらりと入ってきたセバスチャンにツッコミを入れる。あれだけのことをやらかしたのに平然としているのは、厚顔無恥、という四字熟語が正に適していた。そんな彼に先程まで黄色い声を上げていた女子達は距離を置き、ちらちらと何人かの男子生徒が話したがりそうにこちらを見てきている状況の中、自然と机を寄せて拓斗達のグループに混ざっていた。


「いや、皆さんから『セバスチャン君は七五三木さんの所がいいよ、うん』と勧められまして。あ、そういえば朝に『七五三木さんがしっかりしているからあそこにはダメンズが集まっているんだよ』って教えてくれた人もいましたね」

「ダメンズ!?」


 静の所にいる男子は3人。

 大海。

 蒼紅。

 そして拓斗。


「おいセバスチャン、それ言った奴誰か教えろ。説教してやる」

「教えるのは構いませんが、今は無理そうですよ」

「何でだよ! このクラスのやつなんだろ!?」

「ええ、そうですが……まあ、周囲を見れば判りますよ」

「周囲? ……っ」


 言われてようやく気が付いた。

 周囲から声が聞こえない。物音も全くしていない。

 それもそのはず。


 周囲の人物はピタリとその行動を止めていたからだ。


 静止した世界。


 ――くしゃり。


 音がした。

 遥がおにぎりを包んでいたビニール袋を潰した音だった。

 彼女は席を立ちながら口の中のモノを呑み込み、告げる。



「『魂鬼こんき』が出たわ」

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