第85話 エピローグ -02
◆
原木との戦闘の後。
拓斗と遥は学校へと戻っていた。
原木の遺体は、セバスチャンが処理をするということで申し出てくれた。フランシスカは「そんな雑用みたいなことをするなんて何しているのよ!」と憤慨していたが「まあここでお嬢様の度量の広さを見せましょうよ」と言ったら「そ、そうね。私は心の広い女!」と機嫌を直して「さ、さっさと戻りなさい。この時間は学校でしょう」と手で追い払うジェスチャーを示してきた。
正直助かったと思った。
原木の遺体をどうこうするなんて、やりたくなかった。
人間の死。
それを間近で見てしまった上に、見知った顔であった場合は、たまったものではない。
吐きそうになった。
あれだけ傷を受けていても痛くなかったのに。
今は心が痛くて、ここに居たくない。
遥も同じだっただろう。
ただ彼女は「……一応、支部の人に連絡だけはしておくわ」と告げ、電話でどこか――恐らくは母親にだろう――に掛けた後、
「じゃあよろしくね。行くわよ、拓斗」
遥に手を引かれ、その場を後にした。
無言。
一言も会話せず、二人は学校まで戻った。ただ、戻った場所は教室ではなく、保健室であった。
「お帰り。……ひどくやられたわね」
そこにいたのは、遥の母、美哉であった。
彼女は優しく目尻を下げ、出迎えてくれた。
「……私はそこまでじゃないから、拓斗を治療してあげて」
「そんなわけないでしょう。あんたもよ」
どこかに行こうとする遥の肩を押さえて、美哉は保健室のベッドの一つに座らせる。
「左肩と左耳の負傷。左耳は鼓膜も破けているでしょ?」
「……分からない」
「分からないなら教えてあげるわ。あんたも重傷よ。まあ拓斗君の方が手ひどい状態になっているのは間違いないことだけどね」
「あ、僕の怪我は見た目より痛みはないですよ」
盾としての状態を解除した後に痛みが一気に来るかと懸念したが、どうやらそれもないようだった。どのような理論か不明だが、あの時に負った傷は全てダメージが残っていない。だからこそ、いつもと変わらず遥の手を取って空を飛ぶことが出来たのだ。もっとも、途中で受けた謎の痛み――遥が受けた痛み――については少々痛みが残ってはいたのだが、我慢できないレベルではなかった。
そう、外傷はそれ程でもない。
故に、拓斗は遥に聞いてしまった。
「遥は……大丈夫?」
「平気よ。心配ありがとう」
遥は微笑みを見せた後、少し深い息を吐いて、拳を握りしめる。
「でもあの人達がいなかったら危なかったね、うん。もう少し精進しないとね。……で、お母さん、あの人達って何? 何で飛鳥市担当なのにこっち来たの?」
「完全な独断行動よ。……だからこそ、後の処理をするから許してくれ、ってことなんだろうけどね」
セバスチャンの意図はそこにあったのか――と少しだけそこに考えを巡らせたが、しかし拓斗の頭の中には遥への心配が大半を占めていた。
原木に対して、本気で殺そうとすれば遥は後れを取ることなどなかっただろう。だけど彼女は原木を殺すことではなく、無力化して止める方法を選択した。
だが、結果は相手を死なせることとなってしまった。
しかも目の前で。
それについて大丈夫か――とは聞けなかった。
彼女はきっと、大丈夫だと答えるから。
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