エピローグ
第84話 エピローグ -01
◆トワイライト
トワイライト。
遥が所属する『
その組織の本部の、とある廊下。
そこに、とある男がいた。
男の名は、ウェストコット・ライトブルー。
見た目は3、40代といった所だろう。がっしりとした体躯に刈り上げた髪が良く似合っており、また目の下に刻まれている刀傷が見た目の印象をグッと硬派に引き寄せていた。
しかしながら、それ以上に目を惹かれるモノを、彼は持っていた。
それは、腰に携えている刀であった。
鞘の形状から見て、細く長い刀であることは間違いない。その長さは彼の身長をも優に超えていた。
そんな彼は、淡いオレンジ色の制服を着た一人の男性の報告に耳を傾けていた。
「――以上です」
「うむ……やはり『
「も、申し訳ありません……っ!」
「ああ、いい。こちらも言い方が悪かった。すまない」
「い、いえ。将軍が謝ることなど……」
将軍。
それはウェストコットを指す呼び名である。彼はトワイライトにおける戦闘職のトップに立つ人間である。
ただ、彼が最も強いかと言えば、そういう訳ではない。
トワイライトには戦闘面でトップに立つのは3人いる。その1人がウェストコットであるというのは間違いないのだが。
「む」
と、そこでウェストコットが声を上げる。
「どうなされたのですか?」
「いや……大丈夫だ。それよりありがとう。報告は以上だな」
「はい」
「では下がって良い。……というよりは早く下がった方が良いぞ」
「はい?」
「――それは誰の所為ですかね?」
突然に背後から掛けられた声に「うわ!」と制服の男性は驚き声を上げながら後ずさる。
「ぴ、ピエロ様……」
「んー? 私に様付けなんて良くないですねえ。ピエロは道化師。故に様付け不要! あら? 理由になっていませんね。まあ、いいです」
神出鬼没という言葉が良く合う道化師の仮面を被った人物は、左右に揺れながら制服の男性に訊ねる。
「で、誰の所為なんですか?」
「お前の所為に決まっているだろう」
ウェストコットが嘆息し、制服の男性に「いいから早く行きなさい」と促す。男性は頭を下げながらその場を離れて行った。
「あーあ。どうしてなのか聞きたかったのに。どうしてくれるんですか」
「どうしても何も、お前とまともに話せるやつなんかいないだろう」
「そんなことはないですよー。だってウェストコットさんは喋っているじゃないですかー」
「俺が今、まともだと思うか?」
「いいえ。お疲れの様子に見えますよ。お疲れ様です」
左手で敬礼するピエロ。ありとあらゆることが捻くれている行動のピエロではあるが、しかしこの人物は先にあげた、戦闘面でのトップ3の内の一人であるのだ。
その強さは未知数。
単純に実績が物語っている。
ピエロは、今までの戦闘で負けたことが無い。
けれども、自由奔放に動くので捉えどころがない。
その行動に、ウェストコットは頭を悩ませていた。
「……はあ。お前は一応、トワイライトでも群を抜いた存在なんだから、あまり一般兵に構うなよ」
「あー、そういう一般兵とか自分を特別に思うことはいけないと思いますよ。差別です!区別です!」
「屁理屈をこねるな。相手の立場に立って考えろ」
「んー、そういうの苦手なのですよねー」
逆立ちしながら、ピエロは答える。
「あ、そういえばあの『唄のヤツ』も訳が判りませんでしたね。自分の子供が実はミイラ化するまで死んでから長い間が経っていたなんてこと、別にどちらにしろ死んでいることには変わらないのだから、動揺する必要なんてないのですけどね」
「……伝えたのか」
「ええ。相手からバラされた、っていうのが正しいですけれどね。ですが分からないんですよね。唄のヤツは殺す相手を『トワイライトの敵』って定めていたので時間が掛かるのは明白だったのに、実は想定より時間は経っていました、っていうことで正気を失うのは意味が分からないと思いません?」
「……自身の子のミイラ化を伝えられれば、それは動揺するだろう」
ウェストコットも原木のことについては知っていた。
故に彼は有る程度理解していた。
それほどまでに、自身の子が死んでいることを――自身が殺してしまったことを、認識しないようにしていたということ。
死んだ状態のまま、綺麗に存在している。
そういうように頭が思い込んでしまったが故に、ミイラ化という事象に対して、ショックを受けてしまったのであろう。
認識と現実に乖離に気が付いたが故に。
しかしながらその感情についてピエロは本気で理解していない様子で、人差し指をこめかみに当てて唸る。
「うーん。それが分からないんですよね。……ま、もう死んじゃったからどうでもいいですか」
「そうか。やはり死んだのか」
「あれ? さっきの彼から受けていた報告って、それじゃないのですか?」
「……聞いていたのか?」
「とんでもない。予想ですよ予想」
そう言われてもウェストコットは俄かに信じない。先のもこっそりと聞いていた可能性だってある。姿が見えなくてもピエロはどこにでもいる――そんな印象さえ抱かせる存在。
それがピエロ。
「その通りだ。お前とミス原木のことについて報告を受けていた。だが全然情報が無くてな。何があったんだ?」
「んー、それはそれは語るも涙、話すも涙、喋るも涙なのですが……少しお時間が掛かってしまうのですよ。それはあなたもまずいのでは?」
そう言ってピエロは、両の人差し指をそれぞれ逆の手の甲側の付け根に当てるという奇妙なことを行う。しかしながらウェストコットはその所作だけで何を指すのかを理解していた。
「む……お前が時間を気にするとは珍しいな」
「その言い方は、私が時間を気にしていないルーズだって言っているようなモノじゃないですか。ひどいですよ」
「正にその通りなんだが」
「ほら。早くしないと怒られますよ」
「……」
廊下を先導するピエロに、深い溜め息を吐くウェストコット。予想通り話を全く聞かない奴であった――という溜め息ではなく(……絶対に部下に関わらせたくないな……)という憂いの溜め息であったことが、彼の責任感の大きさを物語っていた。
「分かった。行こう」
色々と言いたい気持ちを押し込めて、彼はピエロと並んで歩き、一際大きな扉の前まで辿り着く。
入るのを躊躇うような、厳粛な雰囲気を醸し出す扉。
しかしピエロは躊躇なくその扉を開き、中へと二人で入る。
その中は、広い空間であった。
豪華絢爛に彩られたわけでもなく、かといって会議室のように机や椅子が並べてあるわけではなく、ただだだっ広い場所。
しかしながら、普通とは違う箇所はある。
それは、中央に伸びている長い階段。
そしてその先にある、白いヴェールに阻まれた高い位置にある場所。
それだけで荘厳な印象を部屋全体に持たせていた。
その中で、
「あ、いましたいました。お久しぶりです」
ピエロは入室した直後、そこにいた人物の声を掛ける。
「
その名の通り緑色の髪が目を引く人物。だがその顔には鉄仮面が被せられており、身体も鎧で覆われている中、かろうじて男性であろうということは分かるが、体型や年齢層の判別も難しい。
加えて、
「……」
彼は全く喋らない。先のピエロの言葉にも小さく会釈をするだけであった。
だが、彼こそがトワイライトの戦闘面でのトップ3の最後の一人であった。
つまり、この場には今、戦闘面のトップが勢ぞろいしているということだ。
そして――
「――皆の者、よく集まってくれた」
上から声が降ってきた。
その声は先のヴェールに包まれた場所から放たれたことは明白であった。
同時に、そのヴェールにシルエットが映し出される。シルエットだけではあるのだが、そこにいるのは女性であるということは、目に見えて判った。
「はっ。ありがとうございます」
真っ先にウェストコットが跪き、残る二人も続いて同じ所作をする。
それだけで彼女の立ち位置が分かる。
トワイライト。
その組織のトップに立つ女性。
その名は――
「――
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