第81話 悲獄の子守唄 -23

 ミイラ化。

 死んでから数日レベルではなく、数週間以上レべルの話。少なくとも3日ではどのような温度条件であってもそのようにならない。

 つまり原木の子供の魂は復活できない。

 それだけではない。


「え…………?」


 原木の瞳孔が開き、不安定に揺れている。やがて顔色が青くなり、歯が震えてカチカチとなる音が聞こえて来た。

 その様相に、拓斗は遥の表情を伺い見た。


「遥……本当なの?」

「……本当よ」


 彼女は眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。


「原木さんの赤ちゃんの状態については、さっきメールが来てたわ。その、だからさっきのは事実で……」

「腐敗すら始まっていたって。異臭も凄かったそうよ。調査班の人達も可哀想だったわね」


 言葉を選ぶようにしていた遥に対し、フランシスカは直球に言い放つ。


「その匂いすら気が付かないなんて、普段一緒に暮らしていると気が付かないのかしら。経験したことが無いから分からないわ」

「うそ……」


 原木が震えた声を放つ。相変わらず喉が裂けているからというのもあるが、かなり苦しそうな声であった。


「だっ……て……赤ちゃん……は……この前……まで……」



「――あーあ。知っちゃいましたか」



 ――突然だった。

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 それ以外の音は無かった。

 だけど、変化はあった。



 いつの間にか原木の背中に、ナイフが刺さっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る