第78話 悲獄の子守唄 -20

「原木さん!?」

「――」


 声にならない悲鳴を上げ、原木は目を見開きながら首元を押さえる。その手の隙間からは赤い血が零れ落ちる。

 喉を酷使しすぎて破裂した――なんてことではない。

 物理的に切り裂かれたのだ。


 ――目の前にいる少女に。


 金色の髪に緑色の瞳。年端もいかぬであろうと印象付けられる、まるで人形かと見まがうような整った容姿ではあるが、その躯に似合わないモノがその手には握られていた。

 双剣。

 大きく反った二つの剣。

 そのような物騒なモノを持ちながら、左手を自分の口元に持っていく。


「あら、何だ、知り合いだったのね。だからあんなにも効率の悪い戦い方をしていたのね」


 流暢な日本語を口にし、ふふん、と少女は鼻を鳴らす。


「声が攻撃手段だと知っているならば、真っ先に喉を潰すべきじゃないの。何なら首を跳ねても良かったのだけれど、そうしなかったのは分かる? そこのあなた」


 顎で指し示してきたのは遥に向けて。

 だが遥が答える前に少女は声高に告げる。


「そうよ。私が優れたスピリだということを見せつける為よ!」

「スピリ……?」

「そうよ。はじめまして前任者」


 少女は胸を張る。



「私の名はフランシスカ・ヴラッドフォード。この街に新しく派遣されたスピリよ」



「それは違いますよ。正確にはこの隣の街が主にお嬢様の担当地域になります」


 と。

 すぐさま否定の男性の声が彼女の背後から聞こえた。

 その言葉を受けたフランシスカは自信満々の表情のまま、数秒間固まった。が、すぐに相好を崩して


「ふ、ふん。わ、分かっているわよ、そんなこと。あれよあれ。ジャパニーズ『ノリ』よ!」

「そうですか。そういうことにしておきましょう」

「むきーっ! そうだって言っているでしょ! セバスチャン!」


 その言葉と共に、彼女の背後からすぅっと執事服を着た美青年が姿を現わした。

 しかしながら、遥の視線はその男性の容姿には惹かれなかった。

 それよりも目を引かれたことがあったからだ。

 セバスチャンと呼ばれた男に、腰から抱えている人物。



「――拓斗っ!?」



 見るからにあちらこちらに傷をこしらえてぐったりとしている、拓斗の姿がそこにあった。

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