第66話 悲獄の子守唄 -08
歌声。
実際に聞こえたのはほんの一瞬なので単音ではあった。それでもそう表現したのは勿論、敵の正体にある程度推測を立てていたからだ。
地獄の子守唄。
故に、歌声。
一際他人の声には耳を澄まして警戒していた。
きっと遥も――と考えていたのだが、彼女はスマホに視線を落として気が付いた様子を見せていなかった。
いやそれとも、もしかしたら先のは幻聴だったのかもしれない。
それでも、拓斗には聞こえた気がした。
その状況を見過ごす――聞き過ごすわけにはいかない。
「遥!」
拓斗は駆け出した。
もはや考えることは一つ。
走りながら拓斗は左胸を抑える。
自分は盾。
遥を守る盾。
比喩ではなく、本当に盾となる存在だ。
自身に埋め込まれたその盾の正式名称は『
その特徴は型外れな所。
その一つが、契約者の意思に関係なく能力を発動できることだ。
(代価は軽くするから簡便な!)
能力の発動を感じた拓斗は手を伸ばす。
その手自体には何の効果も無い。
しかしながら、その行為自体には意味がある。
届かせる。
彼女の元まで、自分を。
――彼女を守る盾を。
ガギィイイン!
突如、遥の前方一メートルくらいの空間が歪み、鈍い金属音を奏でた。
「え?」
遥が顔を上げたと同時に、拓斗の身体が彼女の下へと辿り着く。
「遥! 怪我は!?」
「あ、いや、ないけど……」
「……良かった」
答えられるということは、耳もやられていないようだ。
盾に加えられた衝撃によって可視化することが出来たが、そうでないと全く見えない攻撃であった。
そして可視化出来たことで、どこから攻撃が来たのかも分かった。
故に、遠方ではあったが、人影をその目に捕えることが出来た。
全身を覆う白いローブを身に纏った一人の女性。
拓斗はその女性の顔に見覚えがあった。
「やっぱりそうだったんだ……」
原木御子。
昨日、飛鳥市で関わった女性。
彼女は胸に手を当てながら、こちらを真っ直ぐな目で見つめていた。
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