第55話 戸惑い -06

    ◆



 この後、美哉が家に来たということで、皆で食卓を囲むこととした。美哉のボケに遥がツッコミを入れるような形で非常に賑やかな夕餉になった。

 因みに親子丼だったのは、完全に鈴音の悪意であった。

 その後、食事の片づけを済ませた後に遥と拓斗はそれぞれ自室に戻り、母親二人はリビングのソファで缶ビールを飲みながら談笑していた。


「はー。久々にゆっくりできたわー。流石鈴音ね」

「うふふ。褒めていただいて嬉しいわ」

「この味を遥にも伝授してほしいわ」

「もうしているわ。遥ちゃん、筋がいい……というよりも真面目なのね。一所懸命に覚えようとしているわ」

「そうよー。遥は真面目なのよー。私は違ってねー」

「ええ。そこは同意するわ」

「ひっどーい。そこは否定してくれるところでしょ、親友!」

「そうね。親友だからこそ言うのよ。――親娘なのに性格は似ていないわね、って」

「……っ」


 飲み物を口元に持っていく鈴音に対し、美哉は所作なく彼女の目をじっと見る。

 親娘。

 その言葉を使った彼女の真意を図る為に。

 ――いや、もう分かっていた。

 どういう意味で敢えて鈴音がそう口にしたのかは。


「……ねえ、美哉。聞かせて」


 鈴音は缶を置いて、美哉の瞳を見つめ返す。


「どうしてそんなをしているの?」

「……何のことかな?」

「とぼけないで」


 鈴音の声が鋭くなる。

 ふざけた態度で誤魔化そうとした美哉を言葉で刺す様に。

 数秒後、美哉は深く息を吐く。


「……誰から聞いたの?」

「ううん。誰にも聞いていない。だけど節々に見える遥ちゃんの様相から色々と察しただけ」

「そう。……だからか」


 美哉は両手で缶ビールを握りしめる。

 まるでその温かさを――暖かさを感じるかのように。


「ありがとね。だから私が言い難いことをあれだけ言ってくれたのね」

「……やっぱり。無駄に考え過ぎなのよ。全然言い難いことじゃないと思うけどね。普段はきちんと言えているじゃない」


 普段。

 きちんと言えている。


「そうなんだけどねえ。でもやっぱりあの話題ではちょっと口出しにくくて……」


 ソファに身体を投げ出す美哉。


「ああ、もう、色々複雑なのよー」

「複雑にしたのはあなたでしょ。詳細は知らないけど」

「当たりー。さっすが親友―」


 へへへと緩んだ笑顔を見せる美哉に、鈴音が深い溜め息を吐く。


「……色々と理由があるのは察するわ。だけど敢えて聞かせてほしいわ」


 鈴音は問う。



「どうして――」

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