第5話

魔物の死体は速やかに処理しないとアンデッド化するとイキシアから聞いた煉が剥ぎ取りや死体の焼却などの後処理をしている頃、イキシアは村長らしき人から話を聞いていた。


「ふむ、ならば今まではこんなことは無かったと言うことじゃな?」


「はい、ごく稀に魔の森からここまでやってくる魔物はいましたが、それも1匹ずつでした。今回は魔の森から出てくるには弱い魔物でしたが大規模な群れでしたので戦えるものの少ないこの村では対処しきれませんでした。」


「言われてみると妙じゃな。ゴブリン系の魔物なんぞこの辺で繁殖出来るはずがないのじゃが。例えできたとしても魔の森の奴らに食い散らかされて終わるはずじゃ。」


そこに魔物達の後処理が終わった煉が帰ってきて話に加わった。


「なら、人為的ってことか?そんなことできるのかは知らんけど。」


「うーむ、魔物の調教テイムならば出来ないこともないが、いくら雑魚とは言ってもあれだけ大量の魔物を従えることは難しいじゃろう。加えて言えば魔物の人為的繁殖は未だ成されておらん。」


「なら、自然発生したのか?だとしたらどっかに隠れ家的な場所があるのかもしれないし探して潰した方がいいかもしれないな。」


「少しよろしいでしょうか、魔王様。」


そこで煉が加わってから黙っていた村長が口を開いた。イキシアが発言を促すと続きを話し始めた。


「ゴブリンキングが発生した可能性は無いでしょうか?もしも奴が現れたならばあの数のゴブリンが魔の森周辺で繁殖していてもおかしくありません。」


「ゴブリンキング?なんだそれ?」


煉が聞き返すとイキシアが説明を始めた。


「ゴブリンキングはまあ、ゴブリンの王のようなものじゃな。ゴブリン系統の最終形態でもある。ゴブリンキングが発生した場合およそ半径100kmほどに生息しているゴブリン系の魔物が全て1箇所に集まることになる上にゴブリンキング以外のゴブリン属は皆、理性や感情がなくなり、王の指示に従うだけの傀儡かいらいとなるのじゃ。」


「なるほどな。でもゴブリンくらいならいくら集まってもイキシアならなんとかなるんじゃないのか?」


「うむ、まあ、儂なら確かに雑魚どもを殲滅することもできよう。じゃが王はそうもいかぬ。戦闘力だけなら今のレンよりは間違いなく上じゃろうが儂のが上じゃ。問題はそこではない。奴はな…。」


そこで勿体ぶるように少し間を開けたイキシアはこう言い放った。


「その…外見や言動がほぼ人族じんぞくなんじゃ。だから、なんというか攻撃しづらくてのう。」


「それは確かに攻撃しづらいな…。でも、それだったら会話で解決できそうじゃないか?」


「いや、それがな、ある程度の知能は付いておるし会話も一応できるが元はゴブリンなのでな…。基本的に犯す、殺すしか考えとらんのじゃ。だと言うのに見た目は完全に人族なのじゃからやりづらくて仕方が無い。発生した場合は仕方なくやるしかないのじゃが奴らにも野望があるのじゃろう。悔しそうな目をして息絶える様子は何度見てもトラウマになるのじゃ。」


それを聞いた煉は今回の原因がゴブリンキングでないことを心の底から祈るのだった。

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