五十四「初キスは酸素の味」

 「ヒィィィ……死ぬかと思った……」


 どうも情けない声を出した主、アサヒです。

 ひょんなことから異世界に飛ばされなんやかんやありまして電気鉄骨渡りならぬ透明水晶渡りを行いました。

 勿論、足場は悪く滑らせることが多少。

 なんとか自分に喝を入れながら突破しましたとさ。


 「……身体より精神の疲れが……知らない人に自己紹介するくらい吐きそうになった」


 俺は頭に手を当てながら立ち上がる。

 こうしちゃ居られん。

 入り口に戻らねば。

 俺は水晶洞穴から真っ直ぐ進んでいく。


 「うう……やっぱ寒ぃ……死ぬ、死せる、死に至る……ズビッ」


 鼻水を啜って手を擦る。

 地下は地下でもかなり地下だからな。

 今、明らかに語彙力が低下していたが寒さのせいにしよう、そうしよう。


 「ん……水の音?」


 どこからか水が滴る音が聞こえた。

 勿論、後ろは透明水晶しかないので前しかないだろう。

 飲み水なら最高やで!

 さぁ、レッツゴー。


 # # # # # # 


 「おお! すっげぇ、こりゃ、うめぇ!」


 奥に進むと水の溜まりがあった。

 俺は躊躇なく飲んでみた。

 地下水だぞ? 悪い成分なんざぁあってたまるかってぇの!

 単純に危険性の確認を怠ったから開き直っただけである。


 「ぷはぁ……生き返った。この水美味すぎるだろ。まじ感謝感謝。……ん?」


 遠くで誰かが倒れていた。

 俺はすぐに近寄った。

 注意力も低下しているなぁ、と思ったがあれは明らかに違う。

 罠とかそういう類じゃない。

 危険信号を発している外見だ。


 「って、ロヴじゃねぇか! 何があった、何でここに? 生きてるか? 返事ぃぃ!」


 「うるさい……ゴホッ、ウチが死ぬわけ、無いじゃん。ちょっと、疲れただけ」


 ロヴは全身びしょ濡れで息も絶え絶えだった。

 よくここまで辿り着いたな。

 つーか、ちゃんと出口と繋がっているようで助かった。


 「……へへ、ウチの愛が勝ったみたいだね」


 「何馬鹿なこと言ってんだ。つか、他のやつは?」


 「へへ、あったかーい」


 濡れたロヴが冷えないように抱きしめてやると甘い声で蕩けている。

 ホントこの子、なんなの……


 「つーか、お前なんで下着なんだよ。派手すぎんだろ」


 「お母さんが何があってもいいようにって……ゴホッ」


 ロヴの下着姿をまじまじと見てやると、ガーターの金具に細工がしてあり、杖がしまい込んであった。

 成る程、ガーターじゃなくてもいい気がするがそれはお母様の性癖って事で片付けるか。


 「とりあえず……これ、着ろ。まじで死ぬぞ」


 俺は着ていた上着を一枚だけ貸してやる。

 中に肌着を着ていてよかった。


 「ありがと……けどアサヒは?」


 「あん? 俺は雪国出身だからな寒さに強いんだよ」


 男だもん、強がりたいもん!

 うえ、今の気持ち悪かったな。

 するとロヴは笑ってくれる。


 「ナハハ……アサヒ、ノースドに着いた時に寒がってたでしょ。嘘はお見通しなんだから」


 うっわめっちゃ恥ずいなソレ。

 けど、ロヴは黙って俺と暖を取っている。

 体力の回復を待ってから話を進めた。


 「はい、現状報告。俺、落ちる、助かる。こっち来たら会う。以上」


 「ウチはアサヒが落ちた後に3人で洞窟を下ったけど分かれ道が三本。一人ずつ行ってウチがアタリを引きました。他の人はどうなってるかはわかんない」


 おーけー、把握。

 じゃあ次が重要。


 「あのさ……パッと見、行き止まりだよね? ここ。どやって来たん?」


 「そこの水溜りに穴があって湖と繋がってるよ。潜水時間は……10分くらいかな?」


 へー、10分……10分?!


 「まじで言ってんの、肺活量おばけ?」


 「違う違う。魔法」


 あー、なんて便利なんでしょー。

 まじなんでもアリだな。

 確かに肺活量増加とかロヴらしいな。


 「けれど、結構ギリギリだった」


 うっわ怖すぎるだろ!

 若いロヴでそれならさ、おじちゃんそんなに息続く自信ないよ?


 「でもまぁ、帰りはきちんと考えてる」


 「お?」


 「ラルブルで移動を速めるよ」


 出ました重力魔法のラルブル。

 潜る時は重くして、浮上する時は軽くする。

 それだけでタイムロスをカットできるだろう。


 「よし、作戦は決まったな。行くか」


 「うん。……スレッブ、ラルブル」


 俺とロヴは二つずつ魔法をかけて水に潜る。

 すると、確かに穴らしきものがあった。


 「がぼがぼがぼっ! ぼぼぼっ!」


 やべ、肺活量が多すぎるのと水が鮮明すぎて普通に声出そうとしちゃった。

 大丈夫かな、酸素足りんとかやめてよ?

 まぁ自業自得なんだけど。

 それよりもメッチャ綺麗。

 沈んで底に着くと辺りを見渡した。

 底は水晶が沢山突出していて不安定だが、様々な色形でとても綺麗である。

 壁際なんて鉱石が散りばめられていて色が反射し合ってある。


 水面から差す鉱石の光が七色で、洞窟内部よりも幻想的に思えた。

 こりゃあ水を崇めるのもわかるわ。

 ……んぐ。

 やべ。

 酸素足りねぇや。

 マズイマズイマズイマズイマズイ!

 ど、ど、ど、ど、どうしよう!

 とりあえずロヴにジェスチャーを!


 『オレ、イキ、シヌ、ドウシヨウ?』


 それを見たロヴは反応を返す。


 『バカ ヤッテル バアイ ジャナイ』


 伝わってねぇ!

 俺は渾身のジェスチャーをしてみる。

 自身で首を絞めて苦しいアピール。


 『イキ イキ! ヤバイ シヌ!』


 すると、やっと理解したのかロヴは慌てふためく。

 するとロヴは俺の首に手を回す。

 な、何を……


 瞬間、ロヴにキスされる。

 そして、その中から空気を送り込まれる。

 すまない。なんか、見たことあるヤーツをやってくれてすまない。

 俺らは穴を潜り、上からもう一度光が見えると身体を浮かせる。


 『ラルブル!』


 沈んだ身体が一気に水面まで飛び上がる。


 「ぶはっ……死ぬ、やべぇ。死ぬ……」


 「はぁっ……はぁっ……ウチの初めて」


 やべぇ、もっとやべぇ事になった。

 キカナカッタコトニシヨー。

 とりあえずは感謝だけはしておくが。


 「ありがとなロヴ。助かった。……休んでる暇はないな。ささ、急ぐぞー」


 俺だって休みたいがその間に何を言われるか分からんからな。

 ロヴがキチンと折り畳んでいた衣類を着替え終えたら分かれ道まで戻る事にした。

 ……めっちゃ気不味いんですけどぉぉ。

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