五十一「デプスと透明鉄骨渡り」
俺は今、落下中だ。
というのも洞窟の地面が割れてずっと落下中なのだ。
『デッド・オーバー・クロック』が発動しないので高を括っていたが、この技って攻撃に関してだから、死ぬかもしれない。
「オゥ! シット! カミサマ、ホトケサマァ!」
未だに下が見えない。
上も光が豆程にしか見えない。
高さ数十メートル落ちたくらいでその終わりは訪れる。
バシャン! と、大きな音を立てて水に入った。
「カボォァオバォボ」
いきなりの事で口の中に水が沢山入ってきた。
俺は息の限界が来る前に浮上しておく。
「ゴフっ……はぁっ、はぁっ。死ぬかと思った……」
近くに横穴があるのを目視し、そこに入って身体を横にする。
「はぁーーー! っ疲れた……精神的に。……逸れちまったな」
久々の単独行動イベント。
の、前に一つだけ気になっていることがある。
それは、俺が生き残った事だ。
確かに水に落ちたが、聞いたことある話だと水は数十メートルの高さから落ちればコンクリートと硬さは変わらないという。
つまり、今の高さから落ちて無傷なんてありえない。
そう、思っていると水場の壁が点々と光る。
「…………もしかして、お前らが助けてくれたのか?」
俺が話しかけたのはこの洞窟の壁の一部、鉱石達にだ。
色んな鉱石があるのだから、落下耐性やら衝撃耐性に近い能力をもった鉱石があるのかもしれない。
俺が、話しかけると鉱石達は優しく光る。
「マジか。マジなのか。この国の鉱石はよく分からない」
某缶コーヒーのコマーシャルのモノマネをして見ると鉱石の点滅が早くなる。
なんだか、笑ってくれているようにも感じる。
「ありがとな、助かった」
俺が近くの鉱石を撫でて礼をする。
すると、どこからともなく返事が聞こえた。
『ううん。頑張ってね』
やっべ、そこら辺の人間より優しいかもしれん。
アサタン感激のあまり涙が……。
つーか、喋れるのかよ。
俺は仲間と逸れた事を言ってみる。
「なぁ、上から落ちて仲間と逸れちまったんだが、出口ってわかるか?」
鉱石は光って答える。
触れてみるとやはり、声が聞こえた。
『このまままっすぐだよ。気をつけてね』
お、迷宮系ダンジョンだと思ったが案外簡単に出れるかもしれない。
……フラグは先に折っておこう。
何が出てもこの剣があれば大丈夫だ。
そうだ、迷わないように目印でも置いておこう。
「さてまぁ、行きますか」
俺はぼちぼち歩いていく。
俺が歩くと鉱石が反応して明かりが灯る。
色は赤、緑、青、黄、白、黒、紫と七色もパターンがある。
幻想的な雰囲気は相変わらずで、中々いい洞窟だと思った。
# # # # # #
「って、言った矢先にこれだよ」
しばらく歩いてついた先はない。
目の前は深い穴となっている。
もちろん底なんて見えない。
鉱石と言うより結晶らしき物が突出し始めている場所のここは綺麗な結晶のカケラが降っている。
まるで雪のように。
「行き止まりか……でも分かれ道なんて無かったぞ?」
鉱石に言われた通り、ずっとまっすぐに歩いてきたのにこの始末。
嘘を言われた気はしないので何か仕掛けがあるか、落下しろという事だろう。
「でも、下に落ちると上に出られなくないか?」
むぅ、こんな時に誰かいれば良かったんだけど……
そんな過ぎた事にはリソースを割かない。
今は己のみなのだアサヒ。
ここをどう打開するか。
俺はずっと深い穴を眺めている。
結晶の雪がチラリチラリ落ちて、地面で割れる。
「………………ん?」
俺は奥の方で結晶の雪が空中で弾けたのを見た。
しかし、他の結晶の雪は空中でも壊れない。
何かにぶつかったという事。
「もしかして、男気見せろ系か?」
俺は地面に落ちている石を拾って穴の表面をなぞるように投げる。
すると、石は下に落ちない。
むしろ、空中で止まった。
「見えない地面……怖っ」
この結晶の大穴はその輝きと透明度と屈折率のせいで地面を隠しているようだった。
某ダークファンタジー系のゲームで見たことのあるヤツだが気にしない。
「ほっ…………ほ」
俺は一足ずつゆっくり進む。
次の足の地面が確定しない限り、重心移動はさせず、ゆっくりと着実に進んでいく。
結晶ということもあり、かなり足元はおぼつかず、とてもよく滑る。
しかも、ここの道、曲がってたり穴が開いていたりと初見殺しもいいところだ。
「くぅ……佐原……いるか……!」
誰もいませんよ。
じゃなくて、こんな落下すれば文句なく死亡が確定する場所で某鉄骨渡りのパロディをしている暇なんてない。
ハッキリ言って、一人だと心細い。
寂しいというよりも今迄がみんなといたからこうして一人になるのは現実世界以来だろう。
「へへ、俺ァあっちじゃ幼なじみがいたんだぜ? うわっ!」
ふざけていたら、足を滑らせてしまった。
必死に見えない足場にしがみつく。
滑る足場を必死にもがいて、再び上に登る。
「…………死ぬぞ、いい加減!」
俺は体力が尽きない内に渡りきる事を確信した。
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