五十「アサヒ、落下死は能力発動しないのでは?」

 「さて、着きましたは鉱石の洞窟」


 早いよね、街出て30分で着いたもん。

 洞窟の中は鉱石が光っているのか幻妖に光っていて、とても幻想的である。


 「今、誰に話しかけたの?」


 「ん? それはメタな話になるから避けましょうね」


 ラフィーちゃん、お兄ちゃんの独り言は基本的に無視してね。

 なんてグタグタ歩いていたのだが、一人だけ目を輝かせている少女がいる。

 あの、歩くの早いよ?


 「わぁ、すごい……メダライト鉱石も黒月影石もある」


 んん、全く何言ってるか分からん。

 流石、プロ鍛冶屋スミスの娘のナビィだ。

 その知識量も尋常じゃないようで。

 ちなみに足場が悪いのでラフィーやロヴは俺にくっついている。

 別に怖い空間というわけじゃないのにね。


 「お、お兄ちゃん、怖くないの?」


 「ん? いや別に……なんでお前らはそんなにビビってんの、別に足元が悪いだけじゃん」


 「えぇ、知らないの?! ここは別名『かえらずの鉱墓』って呼ばれてるんだよ?!」


 あ、そうなの? ちょっとコワイナー。


 「なんで『かえらず』?」


 「そりゃあ、人が帰ってこないっていう事と死んでも鉱石に閉じ込められて土に還れないっていう二つの意味があるからだよ」


 お、おぉ。そうだったのか。案外怖いところだな。

 けど、別にこんな狭いところでバカデカイモンスターが出てくるわけがないし、俺がいるから安心せい。

 なんて余裕になるのはフラグでして。


 「むぐぅあぁ!!」


 「お兄ちゃん!」


 前を向いた瞬間に何かが口に飛んできた。

 背中に鉱石を背負った羽虫。

 うぇえ、気持ち悪いよぉ。

 虫は無理やり俺の中に入ろうとする。


 「おごごご!? むごぅぉ!」


 言葉を発せようとも形にならない。

 俺が歯で虫の鉱石を挟んでいるからまだ大丈夫だが、このままだとジリ貧だ。助けてラフィーちゃーん。


 「うんしょ、えいしょ」


 ラフィーとロヴが声を合わせて虫を引いてくれるが虫が入ろうとする力の方が大きいらしく、二人は息を上げている。


 「アサタン、ほい」


 ナビィに話しかけられて渡されたのは針。

 なるほど、鉱石の下の虫に刺して殺せと。

 俺は虫に針を突き刺す。

 焦りすぎて口の中まで刺しちゃったけど、虫は殺せた。


 「ごほっ、げほっ。死ぬかと思った……」


 「鉱石を背負ってるヤツは下が弱点だから。次から気をつけて」


 あーたしかに、亀も中身は脆弱だもんな。

 ナビィさんマジサンクス。


 # # # # # # 


 「で? お望みのものはあったの?」


 「ん〜、もうちょい」


 俺らは奥まで進むと、少し広がった場所を見つけたのでそこでキャンプしている。

 洞窟の中だからか少し肌寒い。

 最初に拾った薪がこんなところで役立つとは思わんだ。

 ナビィは目の届く範囲でずっと鉱石集めをしている。

 反応的には女子だし、宝石集めに近いのかもしれない。

 俺は男だから宝石にはあまり興味はないが。


 「はぁ……小腹空いたな」


 「じゃあ、ソレとか食べて」


 指の方向には黄色に輝く丸い鉱石。


 「えっ、食べれんの?」


 「うん、まだ小さな鉱石は柔らかくて食べれるよ。でも、核はそこら辺に捨ててね。次の鉱石が実らないから」


 何その植物的なそれは。

 俺は言われるがまま、鉱石をもぎ取り食べてみる。


 「上手いな。意外とイケる。ぷっ」


 中に硬い種みたいな物があったので吐き出す。

 すると、コロコロと転がって鉱石の壁にくっついた。

 これが核だろう。多分だけど。


 「色によって味が違うよ。ただ、自分の弱点属性は美味しくないから自分の弱点を見極めるのにも食べられるんだよ」


 へー豆知識だ。

 じゃあ今食べた黄色は光か雷なのか。

 それは美味しかったから弱点ではないと。

 つか、人によって弱点属性が変わるってロールプレイングみたいだな。

 俺は次から次へと色様々な鉱石を食べていく。

 だが、マズイものは特になかった。


 「うぅ、酸っぱ!」


 ロヴは俺が最初に食べた黄色の鉱石を食べて不味そうにしていた。

 あれ?種類違ったのかな?


 「そう? どれ……いや、美味しいけど?」


 「普通に間接……もう」


 やはり、俺には美味しく感じられる。

 つまり、ロヴはこの色の属性が苦手なのか。


 「でも、これって何属性だ?」


 「それは……雷だね。周りに黄色のギザギザが入ってるのが特徴。普通の黄色は光だよ。見間違いやすいヤツの一つだよ」


 お、解説王のナビィ様。

 へー、ロヴは雷が苦手だと。

 エルフだからかな? 関係ないか。


 「アサタン……ちょっと、これ取って」


 ナビィは一生懸命に手を伸ばしている。

 その先にはあからさまにレアな鉱石があった。

 うむ、RPG慣れしていると中々目向きも良くなるものだ。

 俺は立ち上がり、ナビィの後ろに立って手を伸ばす。


 「んぐ……もうちょい……よし、取れた」


 「あ」


 俺がジャンプして取ると地面に亀裂が。


 「うーん、落ちるヤツだな」


 「うん、落ちるヤツだね」


 亀裂は勢いを増す。


 「落ちたら助からないかもな」


 「かもね」


 地面が割れて穴に落ちる。

 その刹那、ナビィを突き放す。


 「あっ! アサタン!」


 「じゃ、また会おう」


 俺はそのまま落下していく。

 うーん、カッコつけれたかな?

 なんでこんな高さから落ちても平気そうかって?

 そりゃあ『デッド・オーバー・クロック』が発動しないからな。

 あれは死ぬ攻撃に関して発動する。

 逆を返せば死なないなら発動しないのさ。

 ……あれ、落下って攻撃じゃねぇな。


 「ちょ! ちょ、ちょい、タンマぁぁぁぁあああ!!」


 手を伸ばそうにも光はもう小さかった。

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