四十六「第一印象は変わりがち」

 俺はロヴを置いて宴の中へ飛び込んだ。

 街の人々は解放された喜びで疲れなんて感じないのかずっと踊り続けてきて既に3時間である。

 まぁ簡単な踊りではあるけども……流石に踊りすぎじゃねぇか? いよいよ取り憑かれてる気がする。


 「んで、ラフィーとナビィはどこだ?」


 ナビィはしっかり者なのでそこまでの不安はないがラフィーは不安要素が多すぎる。

 変な人について行ってなければいいけど……


 「アサヒさーん、踊りましょう?」


 若い女の人に囲まれる俺。

 踊りたいのは山々だが残念ながら仲間の収集が先だ。


 「あーごめん。ちょっと今、人探してて」


 「あーん連れないわねぇ。その人の特徴は?」


 「えーと、金髪のボブの美少女で泣き虫の妹と赤髪のロングの女の子。あ、こっちも可愛いぞ。特にツンデレなとことか」


 あ、そこまでは聞いてないか。

 とりあえず特徴は言えただろう。

 俺は若い女の子達を見て何処と無く似ている子を指差す。


 「あー、妹はこんな感じの子だわ」


 「んむぅ?!」


 後ろを向いてた少女の肩を掴みこちら側に向かせると驚かせてしまったか声を上げられてしまう。

 少女は日本でいうフランクフルトに似た物を頬張っていた。


 「ん、ぐぐぅ……げほっ、げほっ。どったのお兄ちゃん?」


 あ、ラフィーでした。

 じゃねぇよ、お前何してんのこんな所で。

 あ、飯食ってんのか、喧しいわ。喧しくねぇか。


 「どうしたじゃねぇよ……良い子はもう寝る時間ですよ」


 俺は無い腕時計を指す。

 ラフィーはそのジェスチャーに首を傾げていた。

 流石に腕時計はこの世界にはねぇか……

 そして、ラフィーは素直に話を聞いてくれなかった。


 「え〜、私もう少しいたい! いいじゃん頑張ったんだから!」


 まぁ悪魔を祓い退けたのだから仕方な……いや、俺が倒したんだからね?!

 なぁ〜にいい具合に俺の美味しい所持ってってんの……

 まぁこの子は自分の意思に重みを置いてるから俺がこれ以上言っても無駄だろう。

 ナビィ様にお手伝い頂こう。


 「しゃ〜ねぇなぁ……ナビィ見つけて連れてくるからその間だけだぞ?」


 「うん、わかった! はむはむ」


 あら、すぐ頬張っちゃって。

 食べ物は逃げませんよ?

 つーか「はむはむ」って言うなよ、SE必要無しかよ。

 妹のあざとさに辟易しながらも次はナビィさんを探しに行く。


 # # # # # # 


 「んで、ラフィーと対照的に木陰にいるってなんなの?」


 まぁ陽は落ちてるから木陰というより木の足元だろうけど。

 そこで木に寄りかかり目をつぶっていた。

 俺が近づくとすぐに目を開けて、再び目を閉じた。

 俺、意外とこういう空気好きなんだよね。

 俺も便乗して木に寄りかかる。


 「………………大丈夫なの?」


 少ない単語で放たれた心配は俺に対してだった。

 むぅ、デレモードかな?


 「…………平気だよ」


 俺も少ない単語で返してやる。

 ナビィの心配とは、親父曰く『ブチギレモード』の俺のことだ。

 魔法バンバン使っちゃうし、相手に対して容赦がない。

 そんな悪魔より悪魔な俺のことだ。

 魔力切れや身体の不調を心配してくれていたのだ。

 さすがパーティー唯一のしっかり者だ。

 まぁ、俺もびっくりしたが特に不調はない。

 強いて言うならめっちゃ疲れた事くらいかな。

 それも親父が言っていた『デッド・オーバー・クロック』のデメリットの1つだから仕方ないだろう。


 「……なら、いいけど」


 ここからは宴を広く見れる。

 キャンプファイヤーを囲んで踊る街人。

 その側で食べ物を配る青年。

 受け取るラフィー。

 あいつ、どんだけ食うんだよ。

 なんて嵐の過ぎ去った後の祭りを眺めていると、俺とナビィの間に空気が走った。


 「……コート。返すね」


 「あ、お、おう。ありがとな」


 ナビィは寒くならないように作ってくれた毛皮のロングコートを俺にかけてくれた。

 なんか今の所作って夫婦っぽくね?

 まぁ、そんなアホなことを考えてるのは俺だけなのか、ナビィは考え耽っているのか余韻に浸っているのかわからない表情で腕を組んでいる。


 「……詳しく話して」


 ナビィに『ブチギレモード』について言及される。

 まぁ、俺自身分かりきってる部分も少ないが仕方なしだ。


 「俺が光に押し潰された後の俺……めんどいから『ブチギレモード』で統一するわ。んで、その時の俺はお前が一番知ってるから端折るな。まず、俺とラフィーは純人間じゃないらしい」


 「まぁ、そうだと思ってたよ」


 あら、バレてましたか。

 まぁそこにいたる要素は意外とあったしな。

 例えば魔力切れした事があるとか。

 あの時は謎の太陽を作り上げて魔力切れになった。

 他の奴らには『ドレイン』によって魔力を吸われたと言っていたがナビィは周りにそんな魔物がいない事を見破っていたようで。


 「んで、『ブチギレモード』中に夢の中で親父と会った。俺らしい能力をもらったよ」


 「アサタンらしい?」


 「あぁ。俺は『デッド・オーバー・クロック』って呼んでるけどな、簡単に説明すれば『絶対に死ぬ攻撃が来たら素早く動ける』って能力。まぁクールタイムが1分ある事と疲れる事以外は特にデメリットも少ないよ」


 「何でアサタンらしいの?」


 「そりゃあ、俺弱いし、ゴキブリみたいに素早く、生命力があるからな。ほら、嫌われ者は長生きするってヤツだ。だから、延命できるような能力って俺らしいし、攻撃自体は何も加護を受けてない辺りも俺らしいよな」


 俺は自虐を交えて説明する。

 ナビィは時々反論してくれたけど、実際本当にそうだったからなぁ。

 現実世界では人の核心を突いてくばかり嫌われるのが多かった。

 その中でもそれを気にしないようなアホな幼なじみが1人いて、いつも2人だったからボッチではなかったな。

 懐かしいなぁ。アイツ、今頃何してんだろ。俺のこと探してくれてんのかな?

 第一印象と過ごして来た時間の印象って大分違うよな。


 「そーいや、お前も最初はラフィーと同族かと思ったわ。なーんで今はクールキャラになってんの? 最初は、はい! 元気です! キャラだったのに」


 「そのキャラってやつは分かんないけど……アタシもラフィーちゃんのお陰で自分を隠さなくていいんだってわかって。あの子は気づいてないけどね。本当のアタシはこっち。お父さんの倅って事もあってプレッシャー凄くて、ああやって元気で明るい子を演じてたら人付き合いも簡単だったからさ」


 スミスが名工過ぎるばかりの悩みというやつか。

 ナビィはナビィで大分抱え込んでいたんだな。

 

 「さて、そろそろ冷えてきた事だし、戻りますか」


 「そーだね」


 俺らはラフィーを回収して間借りした村長宅へ向かった。

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