第40話 ついに始まる魔法学っ!!
いつものように雑談を交わしながら全員で校舎を出る。いつもと若干違ったのは、真穂さんが堀田先輩と親しげに会話をしているぐらいだ。凄く茶化したい衝動に駆られたが、グッと抑えつけた。
「じゃあまた」
いつもの様に堀田先輩が手を挙げた。その言葉に、もう俺はある種の特別な感情を抱かない。だって俺はすでに、魔法学のちゃんとした一員なのだと自覚していたからだ。今度はそれがなんだか嬉しくて、結局特別な感情が湧いていた。
「うっす。またお願いします」
軽い会釈を返す。
真穂さんはソワソワとモジモジと、深いお辞儀をした。本当は運動場側から堀田先輩と行きたいんだろうな、って分かり易すぎるぐらい切ない顔をしている。見てるこっちがモジモジするわ、ってもうちょっと仲良くなったら突っ込もうと決意する。
先輩達は口々に、再会の約束された別れの言葉を述べて、俺たち一年生コンビに背を向けた。その背中を見送って、真穂さんがツンケンツンケンと歩き出したのをきっかけに、俺もその背中を追った。
教室の出来事を思い返しまたキレられると思ったが、真穂さんは振り返ることもなく、ズイズイと歩を進める。その後ろ姿をちゃんと眺めれば、凄く楽しかったんだなと伝わった。
それに考えれば当たり前だ。今ここで俺にキレるということは、堀田先輩が好きだと口にする様なモノだ。ましてや俺に、自分から言うはずがない。考えれば、当たり前だった。
結局真穂さんとは言葉を交わさずに教室に戻る。すぐさまに帰りのHRが終わり、いつもの慌ただしい、再会の約束が無い別れの言葉を、ユキノブと大和に一ミリの感慨も無く告げられ、俺も学校を後にした。
いつもの帰宅路。頭に思い描くのは、魔法学の事だった。全員が、いつか魔法を使えるようになると良いな、なんてニヤニヤしながら家に向かう。
堀田先輩は雷の魔法だ。使えるようになれば、凄く格好良いだろうな。そんな事を考えていたら、どんどん妄想は加速していく。
場所は不毛の荒野。まさしく台風の様な空模様で、敵は山の様に巨大化した箒に跨がる魔法中年。おそらく何かしらの魔王的な存在だ。魔王中年とでも名付けよう。
まずは白銀の鎧を纏う勇者堀田の登場だっ!! 雷雲を呼び寄せ、幾線もの数え切れぬ雷を、魔王中年に打ち落とす。
続けて光の魔法使いアリス先輩の登場だっ!! 空を覆う灰色の雲が突如引き裂かれ、一筋の光明と共に笑みを携えた女神が舞い降りる。神々しい輝きを放つ質素なドレスが体に張り付く。その手には背丈ほどもある細長い杖を持ち、それを一振りすれば、空中に魔法陣が展開される。そしてその魔法陣から出現した白色を放つ巨大な槍が数本、魔王中年に突き刺さる。
しかし魔王中年の攻撃は凄まじく、突如振り回された
ほんのりとした黄緑の光を放つ、ふんわりとした衣装に身を包み、勇者堀田へと駆け寄る。紫乃先輩が歩いた道筋には色とりどりの花々が咲き乱れ、不毛の大地は華やかに彩られていく。そして紫乃先輩が光を放つ右手を勇者堀田に撫で付ければ、すべての傷が癒えていく。最強の癒し魔法。
その光景に怒った魔王中年。魔力を最大まで高め、必殺技を繰り出す。突如現れたのは、空を覆う無数の
闇のフードを外して、無数の黒玉襲い来る空を睨みつけ、突然、フッと笑うんだ。穏やかな笑みを浮かべたまま、仲間達に別れの言葉を告げる。そして止められながらも仲間の手を振り払い、絶対絶命のピンチを、自分の命と引き替えに、覆す。ああもう、考えただけで泣きそうだ。
そして仲間を失った悲しみを力に変えた勇者と光の女神、癒しの魔法使いが力を合わせて、魔王中年を討ち滅ぼす。晴れ渡る空。一筋の涼しげな風が不毛の大地に吹き抜ける。そこで真穂さんと俺の登場だっ!!
踊り子の様な露出度高めの服を身につけた真穂さんは、堀田先輩に泣きながら抱きつき、ベッタリと張り付く。所謂エロ要員。光沢のある黄色いパンツが何度も覗く。
そしてその上空に俺は居る。やけにもっこりの目立つ青いタイツに身を包み、豪快な笑い声を上げながら、その様子を見守っている。紛れもないギャグ要員。なんだそれっ。俺と真穂さんだけ、アホみたいだっ!!
「プフッ!!」
と自分の妄想に吹き出してしまった。だがしかし、まさしく今の魔法学だ。最高の先輩達に、動揺しながらも憧れ、付き従う後輩の俺と真穂さん。うん、笑ってしまうほどに、まさしくだった。
そんな事を考えていたら、いつもの場所まで来ていた。俺はゆっくりと、徐々に速度を上げながら走り出す。でも今日は、全力は出さない。緩いスピードで走る。シュートを決めた興奮の余韻に浸るかの様にゆっくりと地を駆ける。そして路地に入った。
いつも通り、人はいない。斑模様の猫が、驚いて逃げていく。そして俺は、軽く地面を蹴り上げた。
「飛べないや」
独り言を、ニヤけながら呟く。でも別に良い。俺の魔法学は、俺の魔法は、これから始まるのだからっ!!
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