第20話 宝くじでも当たったのか? まぁいいや別に


 信じられないほど、退屈な土日だった。休日に学校へ行きたいと思ったのは、いつ以来だろう。


 サッカーをやっていた時期は、休日なんて無かった。サッカーを辞めてからは休日だらけになったが、それでも土日だけが、心の安まる日、のはずだった。


 平日に学校を休むと、誰かに責められている気がした。親なのか、先生なのか、友達なのか、サッカーなのか、いつも誰かに見張られ、逃げ出したのかと、弱虫野郎と、責められ続ける、そんな気がしていた。


 部屋の中で一人、モノに当たる時もあった。世界中で俺だけが不幸なのだと、まんざらでもない悲壮に浸り、笑ったりもしてたっけ。ああ、恥ずかしい。なんて事を思い出させるんだ。退屈という魔物は。


 そして俺は、その誰かが自分自身だと気づき、そんな自分を変えたくて、髪を金色に染めたんだ。と現在進行形の若かりし日に思いを馳せる。


 結局変えられたのかは分からなかったが、サッカーの出来ない自分というものを、髪を金色に染めることで、飲み込めた様な気がした。確か、泣いたっけな、あの時は。ああもう、まただ。なんて恥ずかしい事を思い出させるんだ。退屈という魔物は。


 そんな心安らぐ休日のはずだった土日が、これほどまでに恥ずかしい休日に、退屈な日々に変わったのは、おそらくたぶん絶対に、そんな俺に手を差し伸べてくれた友人と…………魔法学、なんだと思う。ああ、早く学校に行きたい。土日が邪魔だ。そんな事を考えながら、俺は部屋の中で二日間をだらだらと過ごしていた。


 時間割の書かれたプリントを眺め、魔法学の選択授業を確認する。月曜日の六時限目と、金曜日の五、六時限目。明らかに学校をサボらせない様にしている。とか暇すぎて時間割に込められた学校の思惑なんかを想像した。


 そして涼子先生の話を思い出しながら、次の魔法学は三週間後の月曜日? などと気付いて、少しばかり肩を落とした。


 この間の選択授業は、生徒にその楽しさを仕込む為の、特別処置だったのかもしれない。暇過ぎて、そんな事も考えた。確かに、楽しかったし、その思惑に、俺はまんまと引っかかってしまった訳だ。おのれ策士っ!! などと俺は暇すぎて――


 それでも土日は終わらなかった。マジで次からどうしようと悩む。大和とユキノブは、休日までも部活だ。それが終われば、当たり前の様に、同じ部活のやつらと遊びに行くだろう。俺もそうだった訳だし。ああん、寂しい。そいつらとも友達になって、いつか誘われるようになりたい。ああん、友煩いだ。モジモジしちゃう。いや、しない。


 色々と考えて、思いつく。バイト。そうだ、バイトをしようっ、なんて何かのキャッチフレーズの様な言葉が、俺の頭に湧いて出た。


 金さえあれば、大和もユキノブも、俺を誘ってくれるかもしれない。全然奢る。全然構わない。全然それで良い。なんか欲しいものあるかな? バイトでお金が入れば買って上げるのに。なんて俺は夜の蝶に恋する中年の気持ちを不意に理解する。そしてやっと、月曜日になった。


 もうバカみたいに早く起きた。早く起きすぎて恥ずかしいぐらいに早く起きた。だからゆっくりと風呂に入る。


 脱衣所で着替えていると、不意に目に入り込んできた鏡に映る金髪ヤンキーの顔が、ニヤけている事に気付く。恥ずかしすぎて睨みつけた。そして俺は脱衣所を出た。


「おはよう」

 と俺は、綺麗なシステムキッチンで弁当を包んでいる母親に声を掛けた。

「お、おはよう」

 なぜだか母親は少し驚いて、そして微笑んだ。


「おはよう」

 と次に俺は、新築のリビングで朝食を食べようとしている父親に声を掛けた。

「ハハハ、おはよう」

 なにやら嬉しそうに笑っている。なんだ二人とも? 何か昨日良いことでもあったのか? そんな事を考えながら、俺は自室に入った。すぐさまに制服に着替えて、部屋を出る。


「母さん、弁当」

「はいはい」

 やっぱり嬉しそうに笑っている。その光景が少し懐かしい感じもしたけど、俺には分からなかった。まぁいいや、早く学校に行こう。

「行ってきます」

「おお、楽しんでこい」


 やけに愉快な父親の声を背に、俺は家を出た。やっぱり何かあったんだろう。まぁいいや別に。早く学校へ行こう。


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