交流会①

 交流会を行なう――そう宣言した美紅の許、四人は学校を出た。

 そしてやって来たのは、学校から遠くの場所にあるボウリング場であった。


「じゃあじゃあ、ルールを説明するわね!」


 のこのことついてきた他の三人に、美紅はそう切り出した。


「チームはシンプルに、男女で分けましょう。私とあきらんチーム、それと四葉っちに陽野くんチームね。ゲームはとりあえず2ゲームやって、合計スコアがいい方が勝ちということにしましょう。シンプルでいいしょう?」


 楽しげに提案しつつ、名案だと思っているのか、美紅は笑う。


「それでもって、負けたチームは後で何かおごることにしましょ。あ、でもおごるといってもあまり大金なものは駄目よ。楽しい交流会が、えげつない友情破壊会になってしまったら困るからね」

「その前に、いいか?」


 美紅のルール説明が終わったのを見て、剣聖が口を開く。


「そもそもなんで、交流会とかいってここに来たんだ?」

「え? そんなの遊ぶために決まっているじゃない。交流会で、いきなり真剣な勉強会したり、昨今の政治について討論しても息詰まっちゃうでしょ?」

「そうかもしれんが……。ただ単に、遊びたかっただけじゃないだろうな」

「……そんなわけないよー」

「おい。なんで棒読みなんだ。それに一瞬間があったよな?」

「気にせず気にせず~。さっさとゲームを始めましょうよ~」

 

 剣聖の追及をごまかしつつ、美紅はボウリング場用のシューズを手に取りながら、軽快な足取りで、ゲーム場へと向かう。

 それを見て、剣聖は嘆息する。


「まったく。何を考えている、あの女は」

「そう、目くじら立てなくても」


 控えめにそう言ったのは、晶だ。

 彼女は、すでにボウリングシューズを買って、剣聖に並ぶ。


「あのままじゃ行き詰っていたのも事実だと思うし、美紅も美紅なりに考えてくれているはずよ。ここは信じて、従ってみましょう?」


 そう言って「ね?」と首を傾げる晶に、剣聖は黙る。

 彼としては、本当にこの行為に意味があるのか分からないと言った様子だが、かといって明確に反発しているわけでもない。

 ただ単に、燎太との会話のためにこうした場を設けるのに不審なだけだ。


「ところで、四葉くんってボウリングは得意なの?」


 ちょっとした好奇心から、晶が尋ねる。


「いや、初めてだ。こういうところには、ほとんど来たことがない」

「あ、そうなんだ。私も、昔家族で来た時以来だから、友達と来るのが実は憧れだったりしたの」


 くすり、と晶が思わず笑う。

 その可愛らしい自然な仕草に、剣聖は思わず頬を強張らせ、背後を見る。

 そこでは、燎太がシューズを選んでいるところだった。


「お前、密かにワクワクしてないか?」


 剣聖が、晶に顔を背けながら訊く。


「そ、そんなことないよ。これは、交流会であって、仕方がなく……」

「なるほど。密かに楽しみにしていることは分かった」


 ぶっきらぼうに悪態をつく剣聖に、晶はむぅっと口を噤む。

 そんな彼女の表情の変化を知らずに、剣聖は続ける。


「ところでさっきから気になっていたんだが、なんでわざわざ室内用にシューズを選ぶんだ? 普通の靴じゃ駄目のか?」

「それは駄目よ。ボウリング場は、滑りやすくなっているから」

「そうなのか?」

「うん。あ、ひょっとして、シューズの選び方が分からないとか?」


 訊ねつつ、晶は何故か目を輝かせる。


「教えてあげようか? 私が、先輩として」

「……いい。大体分かった」


 憮然と言い返すと、剣聖もシューズを借りるべく歩き出す。

 つれないその態度に、晶はがっかりした様子で肩を落とす。

 そんな彼女を見て、頼重が語りかける。


『少しは、彼女の好意に甘えてもよいだろうに。うなだれているぞ?』

「……知るか。うるさい」


 ぶっきらぼうに言い放ち、剣聖もシューズを借りるのだった。

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