説明と重い空気①
再会は、休み明けの学校であった。
珍しく学校の開門時間から学校へやって来た剣聖に対し、燎太が学校に来たのは、朝のHR開始直前だった。
「…………おはよう」
「あぁ」
登校直後の挨拶は、重々しかった。
先日の休日の魔との遭遇以降、剣聖は燎太へ連絡を試みたが、燎太がそれに応じることはなかった。
この前の出来事がそれだけ衝撃的だったのだろう。どう会って会話を交わしていいか分からず、避けていたのだろうことは容易に想像がついた。
そんな推測を立てたこともあり、朝は充分に会話することが出来なかった。
HRが始まり、その後の午前の授業もつつがなく進んでいく。
そして昼休み、剣聖は避けるように教室を去ろうとする燎太に告げた。
「放課後、ちょっと付き合ってくれ。話がある」
用件は伝えなかったが、伝わったのだろう。燎太は苦い顔ながら了承する。
こうして、二人は放課後に会話の機会を得るのだった。
燎太を連れ、剣聖は多目的教室へやって来た。
そこではすでに晶も待っており、彼女はお茶を入れて燎太を出迎える。
普段の燎太であれば、女子からのそのもてなしに浮かれるところであろうが、今日はそんな余裕なく、表情は重かった。
自然と室内の空気も重くなる中で、剣聖が口を開いた。
「敏いお前なら分かっていると思うが、一応話しておく。俺とこいつは、一昨日お前を助けた本人だ。お前からすれば、よく分からない化け物からな」
その言葉に、燎太が軽く肩を震わせる中、剣聖は事務的続ける。
「正体としては、この街をあの化け物から守るために戦っているといったところだ。そんな活動の中で、お前はたまたま巻き込まれたというわけだ」
淡々と説明する剣聖に、燎太は無言だった。
理解していないわけではないだろう。ただ、どう反応していいか迷っているだけであると思われた。それを見抜き、剣聖は続ける。
「ここにお前を呼んだのは、それについてお前へ説明するためと、口止めのためだ。魔についての情報を教えてやるから、その代わり周りには黙っていてほしい、というな。理由は、色々あるからどこから話せばいいかだが……」
「四葉くん。少し、相手の反応も待ってあげたら?」
話をスムーズに進める剣聖だったが、スムーズすぎるのもあって、却って晶は懸念を示すように口を挟んできた。
その言葉に、剣聖も「む、それもそうか」と黙った。
沈黙が流れる。
剣聖と晶が燎太を見ると、燎太当人は二人には合わさぬように視線を彷徨わせてから、重々しく口を開いた。
「いろいろ、訊きたいことはあるけど……一昨日の出来事は、あまり他人に公言しない方がいいんだよな?」
その言葉に、剣聖も晶も眉根を寄せる。
「あぁ、そうして貰えると助かる。と言うより、そうして貰わないと困る」
「一応聞くが、なんで?」
「あんなものが世にいる、そんなことが世間の一般人が知ったらどう思う?」
「……混乱するだろうし、恐怖もするだろうな。それ自体にも、それと戦う人間に対しても。それに、下手な正義感から無意味に関わろうとする人間が出てくるようなことも起きてしまうかもしれない」
回答として、ほぼ百点満点の言葉を燎太は言う。
剣聖は頷いた。
「そういうことだ。俺たちは立場上、それは避けたい」
「二人は、何かの組織の人間なのか? それとも、民間の人間なのか?」
「組織?」
燎太の問いに、晶が首を捻る。
一方で、剣聖は素早く燎太の問いの意味を汲む。
「あぁいった存在と戦っているのには、何らかの組織があるのではと思ったんだろう。結論を言えばそういった組織はない。あくまで個人の活動だ」
「そうか……。じゃあ、組織的に俺をどうにかしようとする気はないんだな? あくまで、個人的な願いとして、俺にこうして頼んできているんだな?」
猜疑心を感じさせる燎太の問いに、剣聖たちは頷く。
「その通りだ。それで、答えとしてはどうだ?」
黙っていてくれるか、という剣聖の確認に、燎太はややあって応じる。
「公言する理由はない。強請る気もないし。黙っているつもりだよ」
その返答に、晶がそっと安堵の息をついた。
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