6-9 チーム -Crossing-

「オーマイガー! まさかこんなに早く! 君たちが一番乗りだよぉ!」


 やたらテンションが高い。ロメウス会長はくるくると回転しながら歓喜の声を上げている。


「では、確かにご依頼の品をお納めしました」


 これで帰らせて貰おうとは思っていないが、この変わり者の会長がどう出るかを見極めてからだ。


「まだ仕事は終わりじゃないです」


 ロメウス会長は急に神妙な顔になって、指でサングラスを上げ直す。やっぱりな。そうだと思った。


「間もなく全ての品がここに集まる。他のチームと共同して私の護衛について貰う。オークションには色々と危険な連中も集まるのでな」


 延長っすか。てか、最初からそれ言ってくれれば……あー、俺等がお使い出来るかテストして、合格なら護衛でって、そういう事か。


「この仕事の成功報酬はあるんですか?」


「うちの施設のフリーパス。各地に支部があるから情報収集にも困らないよ」


「なるほど……」


 悪くない条件だ。お金を貰ってもあまり良い気分でもないしな。


「部屋を用意するからそこで休憩しててよ」


 ロメウス会長が受話器を取る。


「二人を第三応接室に。お茶とお菓子をお出しして。一番良い奴をな」


 すぐにドアが開いて、犬のような顔の少年が入ってきた。


「こちらへ」


 案内してくれるらしい。ありがたい。小腹が空いていた所だ。俺はリストの手を引いて、後についていく。後ろでふふんと愉快気に笑うロメウス会長の気配を感じたが、気に留めずに部屋を出た。廊下を通って同じ階の部屋に通される。中は広々としていて、テーブルが四つとそれを囲む配置でソファが四十八脚。読めた。ここで護衛チームの顔合わせだな? やれやれ、群れるの苦手なんだよね……。

 俺はとりあえず左奥のソファに座って、隣にリストが座るのをちらりと見た。


「どうぞ」


 間を置かずにお茶とお菓子を出された。高そうなロールケーキ。お茶は紅茶だろうか? いや、ここに地球の植物は存在しない。それに近いものだ。香りを楽しんで一口飲んだ。美味い。ダージリンといった風味だが、こんなものがここにあるとは驚きだ。


「ふむ……」


 リストが小さく頷く。香りと味に納得がいったのだろうか? あの顔は満足している時の顔だ。一緒に暮らしているから分かる。


「こちらにポットがありますので。チームが揃うまでこちらでおくつろぎ下さい」


「ありがとう」


 俺は犬のような顔の少年に目礼をして、ロールケーキに手をつけた。チョコっぽい色だが、口に入れたらやはりチョコ風味なのであった。リストももぐもぐと食べ始めて、小さく頷いている。口に合う味だったようだ。手が止まらない。余程お腹が空いていたのだろうか? ああ、エトハールの服を探すので歩き回ったから。そうだよな。


 エトハール。もうひと働きして貰うか。メールを……と。


 腕時計に文字を入力して送信。多分今頃シュレイ夫人と任命についての話をしているはずだが、切り札は彼女だ。もう決めている。


「ふっ」


 愉快気に笑って、俺はロールケーキをかじった。


「ふぅ……」


 一息ついてリストが背もたれに寄り掛かる。目を閉じて、自然と俺の手を握った。俺も背もたれに寄り掛かって目を閉じた。こういう二人だけの時間って実はかなり貴重だ。これが終わったらまた生活費のために地味なアイテム探しの探索をやらなきゃいけないし、他にもやる事はたくさんある。

 意識が軽く遠のく。瞑想に近い状態になる。その刹那脳がびりりと痺れて、ヴィジョンが見えた。


 星空。宇宙。荒れた肌のような大地には草一本生えておらず、見渡すと向こうに大きなドームがあって、その中に近未来の都市のようなものがあった。それがミサイルか何かの一斉攻撃で爆炎に包まれる……! 炎に包まれる都市――その中から誰かが歩いて出てくる。赤い鎧に身を包んだ金髪の少女。少女は冷然と対岸の軍勢を見据え、黄金の弓から炎の矢を放った。炎の矢は着弾と同時に荒れ狂う竜の姿を成して、軍勢を残らず平らげてしまった。


 ――これは、リストの過去?


 俺の意識が浮上してきた所でヴィジョンは消えた。目を開けて、目の前でマジックペンを構える少年のにやけ面を凝視する。


「あっ! 何だよ! おっしぃ~」


 心底残念そうに少年は手を引っ込めた。俺は少年に睨みをくれて、リストの方を向いた。リストはまだ寝ているようで頬に掛かった髪が妙に色っぽくて一瞬どきりと胸が高鳴る。


「おっほっ! いい女じゃん!」


 俺の顔にいたずらしようとした少年が調子に乗っている。俺は文句を言おうと振り向いて、手を引っ張り返された。向き直るとリストが目を覚ましていた。


「ビーン、それくらいにしておけ。彼等の方がお前より遥かに強い」


 仲間をたしなめる声。顔を向けると青い肌と輝く銀髪が見え、頭に一対の漆黒の角が生えていた。一瞬セニーに見間違えたが、彼女と違って泣きぼくろがある。同じ型番で作られた別個体に違いない。


「仲間が失礼した。私はベラリア。流浪の民ルウの戦士だ」


 セニーにそっくりな少女に名乗られた。流浪の民ルウの戦士、ね。そういう設定で製作されたって事か。覚えておこう。


「シドウ。地球から来た。こちらのお姉さんはリスト。同じく地球出身だ」


 俺は立ち上がってベラリアと握手した。リストも立ち上がり、お尻の食い込みを直している。


「地球人にしては随分と戦闘力が高いな。もしや布是流の門下生?」


「少し前に皆伝を許されて」


「では、君が……。私もフゼ先生の下で学び、皆伝を許された」


 ベラリアは兄弟子だったようだ。


「おい! 弟弟子だぞ! 一か月で皆伝を許されたという」


 周りの剣士たちがこちらにぞろぞろ集まってきた。二十人くらいいるが、これが全部兄弟子か?


「おおっ! いかにも天才肌って感じだぜ! 速度特化かな? いや、意外と力もある。で、差料は何処よ?」


 剛力無双といった感じのニワトリ頭の少年が俺の腰回りに注目している。


「止せ止せ。如何に同門と言えど節度ある関係が好ましい。済まんな、後輩。レナンの不死鳥事件を聞いて、これ等は皆興味が湧いているのだ」


 全身が金属で出来ているような少年が俺に微笑み掛ける。かなり頭が切れるといった印象だ。兄弟子にも色々個性的な人がいるらしい。


「はーい! 皆、集まっているね!」


 ロメウス会長が部屋の入口で手をパンパンと叩く。一同が即座に並んで、行儀よく傾注する。俺も一番後ろでリストと並ぶ。


「品は全て手に入った。これからテルンオーズに出向くが、諸君等には私の護衛を務めて貰うと同時にこれら品物の強奪を阻止する任も負って貰いたい。そこで護衛班と警備班に分ける。人選はこちらでやらせて貰った。話は車内で聞いて貰う。移動開始!」


 ロメウス会長の号令で列が移動を始める。規律の取れた行動。どうもロメウス剣の友会という組織は想像していたよりも軍隊寄りのようだった。

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