3-2 セニーの選択 -The die is cast-

 ここに集められた面々は如何にもわけありといった者たちばかりで、俺もその隅でこの組織『センリン』の団長セニーの説明を聞いていた。ホワイトボードの丸印に視線が集まる。


「我々の斥候せっこうが見つけたエリアがここ。暗黒域の輪の中なのですが、ここには少なくとも三つの国があって、今回我々が攻略するのは北のここ。情報によればレイデスという名の国だったようですが、既に滅んで生者はいません」


「しつもーん。その地図によればレイデスはかなり広いらしいけど、団体行動とかしなきゃいけないの? 俺ってそういうの苦手なんだよねー」


 テンガロンハットを被ったサングラスのいもがセニ―に聞く。芋だ。芋みたいな面の少年だ。


「ミスター・スローウインド、ご心配には及びません。この攻略は全てスタンドプレーで成り立ちます。この意味がお分かりですか?」


「ふふん、上手くいけば独り占めも出来る。力無き者は何一つ得られない」


「その通りです。死亡した場合リスタートとなりますが、時間のロスに対するペナルティーは各々が自己責任で負って頂く。攻略で得たアイテムはここに集めて頂きますが、報酬の割合は成果でのみ査定させて頂きます」


「最低保証額はあるのかな?」


「ありません。ゼロの方もいれば、一億ロアの方もいます。我々は百億までご用意出来ます」


 全員がどよめいた。ロアとはここでの電子マネーの単位だが、五千万もあれば向こう三十年は暮らしに困らない。百億という額はあまりにも魅力的だ。


「ははっ、レディ。そいつははったりじゃないだろうな? 悪いが俺の腕は安くないぜ?」


 スローウインドは流石にこの話を鵜呑みに出来なかったようだ。そんな事をすればここにいる傭兵全員に阿呆扱いされる。


「お見せして」


 セニーが指示を出して、リンネイが自分の腕時計を操作した。ホワイトボードの一部が拡大表示に使われ、リンネイの腕時計の画面と連動する。ゼロが多数並んで、きっかり百億までちゃんと表示されていた。


「オーケー。契約に問題は無さそうだ。ところであんたいい女だ。今度一緒にディナーでもどうだ?」


「それは攻略で最も成果を上げた方と楽しませて頂きます」


 さらりとかわしたセニーに口笛を吹く少年が三人。スローウインドは呆れたように笑って見せた。


「では、出発して頂きます。各々腕時計でこのパスを打って現地に飛んで下さい。行く先は北端の寺院。レイデスの首都セラ・ペラスへはまっすぐ南下すれば最短ルートですが、道がありません。西と東に仕掛けがあるようですが、そちらから攻略する事をお勧めします。皆様の健闘を祈ります」


 セニーが言い終わると、傭兵たちがパスを打った。皆その場から消えていなくなった。俺はまだ現地に飛ばない。気になる事があったからだ。


「貴方は飛ばないのですか?」


 セニーが俺をじっと見つめる。リンネイと違って、彼女はグレーのスカートスーツを着ているが、きっと腕の立つ戦士だ。目で分かる。


「わざわざ外部の人間を雇った理由がね。あんたが自分で現地に行かないのがどうも引っ掛かる。凄腕なのに」


 言ってやったらセニーはぷっと笑い出して、リンネイと顔を合わせた。リンネイも笑っている。


「彼、他の人と違うわね。シドウ君、だったかな? 剣聖フゼの最後の弟子。ひと月で皆伝を許された腕利きの剣士。どうやら頭も良いようね。質問に答えましょう。私は現地に行った事がある」


「で、痛い目を見たんだろ? 俺の読み通りならあんた、部下を何人か失っているね?」


 セニーは、ふーっ、と呆れ顔で息をついて、額に指を添えた。


「図星……だね?」


「その通りよ。現地には摩訶不思議な化け物がうじゃうじゃいてね。石化の呪いや永遠の闇の牢獄、歩く寄生生物もいたわ。それ等に襲われ、二度とリスタート出来なくなった仲間を二十人も出して、私たちは手段を変えた」


「つまり俺たちは使い捨てか」


「だからわけありばかりを選んだの」


 あー、やっぱりね。


「下りる? ただでは帰せないけど。五十億ロア置いていって貰う」


「あ! あんた、それで資金を調達したな?」


「トレジャーハンター気取りの馬鹿な金持ちが我が身可愛さに置いていったというわけ」


「二人もか……気の毒にな。でも、あんたの部下の方が気の毒だ。現地で助けられたら手を打つさ」


 俺は腕時計にパスを打ち始めて、近付いてくるセニーに視線を向けた。


「本気なの? 貴方には得にならないはずよ?」


「俺はさ、腕に見合った仕事を求めてきたんだぜ? 何なら部下を助けてくれって依頼に変更するか?」


「そうね……それも一つ保険になるか……いいでしょう。仲間を一人助けるごとに三億ロア、全員助けたら追加ボーナスで四十億ロアお支払します」


「締めて百億。いいのか? あのサングラスの芋、どう見ても凄腕だ。支払えなくなったらどうなるか」


「それで仲間が助かるなら決して高い代償ではない」


 セニーは毅然とした顔できっぱりと言って見せた。


「なら、俺も本気でやらないと。話を聞かせてくれてありがと」


 ウインクして、パスを入力。現地に飛んだ。

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